ハンカチは落とすものである。落とすものであった。私にとっては。
ゲームの話ではない。リアルの話である。
入学祝いや入社祝いなど、ちょっとしたお祝いごとでいただいて、きれいなブランド物のハンカチがたまっていくのがうれしかった。おかげで一時期は結構なハンカチ持ちだった。お気に入りを持ち歩く日は気分があがった。
きちんとしたハンカチを持ち歩くことはきれいなパンツを履くことと同じ作用を心にもたらす。(byとほ)
ただめんどくさがりなので、数十センチ四方の布切れ一枚ごときのために、アイロンを出してきて所定の温度に上がるまで待ち、アイロンをかけてシワを伸ばし、畳んで横に起き、アイロンのスイッチを切って温度が下がるまで室内に放置し、下がり切ったら仕舞う、という手間が手間すぎるため、あたりまえのようにまとめてやることになった。
そうすると、洗濯の済んだハンカチたちは、ももぐられてタンスに突っ込まれ、アイロンが登場するまで待機することになる。ももぐるからよけいしわっしわになる。あ、ももぐるってわかります? わかるあなた、同郷ですね。
いやー、雑に丸めることを「ももぐる」とした下関人、天才やな。あの布や紙が所在投げに力なく体を丸めた様子は「ももぐられた」以外の何者でもない。
話が脱線した。ここの人、すぐ脱線するので覚えておいてください。
で、ももぐったまま出動させるのはさすがにできない見栄っ張りではあるので、ももぐって突っ込んでおいたハンカチをふあさっと取り出してきて、一気にしあげる。丁寧にアイロンをかけ、丁寧に畳む。積み重ねるとさすがにうっとりする。ブランド物の気品をとりもどし、ハンカチたちも誇らしげだ。それを戸棚にしまい、出かけるたびに上から順に使っていく。
そしてかたっぱしからなくす。
方法は簡単だ。膝の上に乗せて立ち上がり、そのまま立ち去る。それだけ。
お気に入りは出動が多いのでどうしてもなくす頻度が高い。数日後、あの子はもういないとわかった時のダメージは大きい。
一旦外に出たら戻ってこれない可能性を感じ取り、私の指に選ばれたハンカチは、取り出されていきながら居残り組に別れのあいさつを告げていたのかもしれない。運良く帰宅できれば、おまえ生きてたかああ、と再会を喜びあったのかもしれない。
そういうことが二十代半ば頃まで続き、自分が持ち出したらなくすという法則持ちであることは流石に学んだため、なのか、実質的に数も減ったため、なのか、いつのまにかハンカチは使わなくなった。
そもそもあの頃はちゃんと持ち歩いていただけ偉かったのだ。ハンカチ落とし名人、めんどくさがりももぐり星人なのに。今では持ち歩かない。ティッシュで済ます。うそです、見栄をはりました、タオル地のハンカチを使ってます。
しかしなぜかタオル地は落とさないんだ、これが。ももぐられてもしわにならずアイロンいらずで、頼もしくていいのだけれど、むしろくたびれかけてそろそろなくなってもいい頃でもなくならないから、同じメンツがずっと出動することになる。
もしかしたら、タオル地の問題ではなく、私はもう落とす体質ではなくなったのかもしれない。試してみたい気もするけれど、よいハンカチを再び起用する勇気が持てずにいる。そもそも持ってない。入学する機会がないからもらう機会もない(買いなさい。
そういえば私より前の世代の方々はハンケチと言っていた気がする。私の住んでいた地域限定?皆さんの場所ではどうですか?
とほ