エミール・クストリッツア映画ロケ地を巡る旅。続きます。
ボスニア・ヘルツェゴビナの首都サラエボからセルビア国内に戻りまして、国境近くの町モクラゴラへ。※1
目的はこの映画。
『ライフ・イズ・ミラクル』
原題: Zivot je cudo(英Life is a miracle)
公開:2005年(日本)
上映時間:154分
監督:エミール・クストリッツア
出演:スラブコ・スティマチ、ナターシャ・ソラック他
1992年。セルビア人の鉄道技師ルカは、家族と共にベオグラードからボスニアの国境近くの田舎町に越してきて、持ち前の楽天気質で陽気に仕事に励んでいたが、ボスニア紛争が勃発し状況は一変。オペラ歌手だった妻はハンガリー人のミュージシャンとかけおちし、サッカー選手の息子は、ベオグラードで再びグラウンドに復帰したいという願いもかなわず徴兵されてしまう。戦火が迫る中、一人家族の帰りを待つルカだったが、ある日捕虜となったムスリム人女性サバーハを預かることに。同じ屋根の下で過ごすうち、やがて2人は惹かれ合っていく。
クストリッツア作品の中で、今年公開の新作『オン・ザ・ミルキーロード』と構成や雰囲気が一番似ている気がする本作。
『アンダーグラウンド』でマルコの弟イヴァン役だったスラブコ・スティマチが主役ルカを演じています。あの心根のよい吃音の青年が、今回は、戦時中も陽気さを忘れない父親かつ恋する男性に。
ヒロインは、以前この記事でも書きましたが、邦画『ザ・テノール 真実の物語』でヒール役を演じたナターシャ・ソラック(タプスコビッチ)。
ヒール役もはまるクールビューテイな顔立ちの女優さんだと思うのですけど、本作では、これも戦時中でありながら、無邪気で恋する娘っ子全開。お肌もぴちぴち。
そんなライフイズミラクルのロケ地巡りに最適な、というかどんぴしゃな鉄道がモクラゴラから出ています。
その名もシャルガンエイト鉄道(Sargan Eight Railway)。
クストリッツアが建てた映画村の下にあるモクラゴラ(Mokra Gora)駅からシャルガン・ビタシ(Sargan Vitasi)駅までを走る山岳鉄道。
モクラゴラ駅から途中のJatare駅までを往復するツアリスト用ディーゼル(又は蒸気)機関車に乗れば、まんまライフイズミラクルの舞台を訪れることができるという、クストリッツァファンならはずせない乗っていれば連れてってくれる非常にラクな巡りスポット。
10:30と13:30の出発時間があり、13:30出発のにのることにしました。
2時間半ほどの往復で600RSD。
詳細は文末に。※2
幾つものトンネルを抜け、橋を渡り、
At A Cross(HA KTCPY)というビューポイントへ。
そこからの眺め。上と下にトンネルがありますが、トンネルには番号がついていて下のトンネルは映画の中でも登場するNo.42。位置から見て、恐らく抜けた先がルカの家(現在のGolubici駅)。
写真小さいですが、42と書いてあるのが見えます。
42の手前は当然41なんですけど、これも位置関係からの憶測ですが、41と42の間が「失恋して自殺しようとしたロバ」のいる場所。
下はトンネルNo.37。ここも冒頭あたりで登場します。
そしてここが映画の本舞台。ルカの家のあるGolubici駅。
マップの説明によると、Golubiciは、セルビア語で「愛し合うふたり」という意味なんだそう。結ばれる(tie the knot)ことを決意した2人を呼んだことが由来で、この映画の撮影を機に建てられた駅とも記載されています。
この映画の背景はボスニア紛争ですが、ボスニアとセルビアの分断により引き裂かれた恋人同士を当時「サラエボのロミオとジュリエット」と呼んだそうです。映画の中でもそのようなセリフが登場しますね。
さて、背後には。
ルカの家。映画のまんま。
Golubisi駅に止まるのは後半でした。
とくに説明があるわけではないので(言葉がわからなかっただけかもですが)、うっかりしていると通り過ぎてしまう可能性あり。
映画の中にも登場する線路を走る水色の車。
この線路自転車?のようなものも、映画の中では複数人乗りでしたが出てきました。
ちなみに、写真には乗っていませんが、ラスト、サバーハの乗っている列車を
ロバが止めるトンネルは44番の文字が見えました。
上の路線図の黒い線路がトンネルなんですが、実は42にあたる場所が黒くなってない……。ですが場所的にはここのはずなんですよ。なんですが、なんで?短いから?(なので私の話は話半分で)
さて、ともかく。飲み込みの悪い自分のためにちょい整理しますと、
シャルガン鉄道が実際にあるのは、ボスニア国境近くのセルビアの町。つまり、撮影されたのはセルビア。
一方、映画の中でルカたちが住んでいるのは、セルビア国境近くのボスニアの町。つまり、設定はボスニア。
「この辺が国境になるのか」「税関はトンネルの中か」などのセリフが出てくるように、まさにトンネル抜けるとすぐそこにセルビア、という位置。
映画の中の鉄道模型を前にしたルカの説明によると、この線路はボスニアとセルビアをつなぐ20キロの線路で、オーストリアにより敷設されたが破壊、再建は観光と商業活性化の要でありトンネルも完成間近だと。
うー、このへん現実とごっちゃにしそうでややこし……
という心の声はひとまずおいて、物語はそういった時期に始まります。
ルカはその鉄道開設準備に向けて、ボスニア側で働いているわけですね。
時は1992年。ボスニア紛争の始まった年。これは史実。
ボスニア紛争は、ボスニアの独立宣言を機に始まったセルビア人勢力対ムスリム人、クロアチア人の三つ巴の戦い。このユーゴスラビア内戦関連も、国家間、民族間での争いが複雑に絡まり合っており、知らない身にとっては本当にややこしく、その先気になる方は各自でプリーズ……
ですが、つまり、ルカ家族はボスニアに住むセルビア人であり、兵役に取られた息子ミロシュが最初はセルビアのノヴィ・サドに配属されるも、その後ボスニアに転属され戻ってきたところで捕虜としてボスニア側に捉えられたため、ムスリム人(またはボシュニャク人、ボスニアの主要民族)のサバーハが捕虜交換要員とされた、と。いうことでいいのかな。
で、一緒に過ごすうち情が移り、愛情を持つようになったのだけど、息子に生きて帰ってきてもらうには、いずれは引き渡さなければいけない、と。
背景や筋を書けば書くほど、重い話としか思えなくなりそうですが、これもアンダーグラウンドと同様、クストリッツアの手にかかるとユーモアを帯びてくるので不思議です。
生も死も喜びも悲しみも人も動物もみんな一緒にもってこいの様相になる、などというと乱暴にまとめすぎでしょうか。
というか、どこかで切り上げないとまだ続けちゃいそうなので、次行きます。
シェンゲン鉄道を一周した他の写真は次にアップします。
セルビア:1ディナール(RSD)=0.95円(約1円)
ボスニアH:1マルク(BAM)=60.3円(約60円)。
ヴィシェグラードにもクストリッツアゆかりの地が
あるんですよね……。行ってませんけどね……涙。