ビデオは巻き戻してご返却下さい。

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映画語り

コロナ禍の影響で、テレワークだったりなんだりで自身や家族、働き方、来し方行く末を思いがけなく考える時間が増えたせいなのか、ふと昔の友人に連絡を取ってみたくなる、という現象が世界のそこかしこで起きているのではと推測するのだけど、というのは、友人が多いとはいえないわたしにもぼちぼち起きているからで、数日前も紀元前2000年頃の学生時代の友人から連絡があった。

昔のものを整理していてバイトの時のユニフォームと私が彼にあげた時計が出てきて、どうしているかと思い出したのらしい。

「彼」なんつって匂わせ?匂わせなの? ちがいます。彼の真の目的は私の女友達の連絡先を聞きたかったのだと思われる。連絡先なくしたんだってさ。ばればれで、ある意味かわいいから許す。そこが本題ではなくて。

そのバイト先とはレンタルビデオ屋だったのですが。実は連絡があった前日にこのバイト先のことを思い出したばかりだった。ツイッターのどなたかのつぶやきがきっかけとなって。なんだったけなもう忘れちゃったのだけど、自宅にあるレールのある書庫に関するつぶやき。それでぱああっとバイト先のビデオストックを思い出したのだった。

ビデオは場所を取るから、ストック場所もそれ相応に大きかった。その記憶があるから、DVDの時代になった時、在庫的な意味でこれからはもっと種類が置けるなあ、と思った。その時には卒業して何年もたっていたし、借りる側の身でしかなくなっていたのに。レンタル屋の棚でビデオとDVDが混合していた時代がしばらくあったよね。

バイト先の話にまた戻るけれど、なぜそのバイト先を選んだかというと、アパートから近かったという他に、映画をタダで見られる特典があったから。

物語、言語、映画、本に旅。この5つの自分構成要素のうち、映画と本は並列で、生きてきた中でどちらかが台頭してどちらかが後ろにさがり、そのうちまた入れ替わって、というのを繰り返してきているのだけど、大学時代はまちがいなく映画の台頭期だった。映画館にも行っていたけれどお金なかったし、ここで借りてみまくった映画は間違いなく、栄養になっていると思う。栄養といってもその内訳は、今思い出せるのはなぜか真夜中のオーメン三部作祭りとか、エイリアン祭りとか、悪魔のどくどくモンスターだか盆踊りだか祭りとか、怖い方面ばかりだけど。

まあいい。

そういえばこれも思い出しついでに書くけど、サークルの先輩が私がそこでバイトしているのを知らずに借りにきて、レジで受け取ったのが私と気づいた途端くるりと踵を返して帰っていったことがあったな。ビデオがいわゆる、まあ、そういうビデオだったからだけど、その踵の返し方が見事であっけに取られた反面、気の毒だった、なにか。私でごめんなさいね。

でもまあ、映画がタダで観られるのもありがたかったけど、そのバイトの仕事自体好きだった。店長夫婦にはかわいがってもらったし、バイト仲間もみないい人たちだった。

ビデオのレンタル屋なんて至るところにあったし、シンプルな仕事だ。だけど映画に関連するというだけで嬉しかったし、レジで受け取って、ストッカーに取りにいって、貸し出しして、戻ってきたビデオをチェックして、返品処理して、両手いっぱいに持てるだけもって棚に返しにいく、という単純作業がシンプルに好きだった。倉庫のどこにどの作品が眠っていて、お店のどこにどの作品があるのか自分がなんとなく把握しているのもなんだか気に入っていた。

返却されて戻ってきたビデオの蓋をかぱんと開けて、テープがよじれてないか確認する作業も好きだった。で問題なければ、ありがとうございました。となる。

でも巻き戻して返すのがルールなのに戻さずに返す人ってやはりいて。そういう時に、次からはお願いしますね、ってやはり一言言うんだけど、なんだろう1割くらい、暇な時はだけど、仕事増やしてくれてありがとうってなってた気もする。嫌味じゃなく。忙しいのが好きだった。

 

ビデオレンタルといえば、思い出すのは『アメリカン・サイコ』

観たのはその頃からもっとずっとあと、DVDが当たり前になって久しい時代ですが。私の押し俳優クリスチャン・ベール主演作のコメディ。え?なんですか、コメディですよね?

“I have to return some video tapes”. (ビデオ返しに行かなきゃ)

その中で出てくるこのセリフ。名刺合戦とともに、クリスチャン扮するパトリック・ベイトマンのはずせない持ちネタ。持ちネタ?

 

あともうひとつ、レンタルビデオといって思い出す映画が、『僕らのミライへ逆回転』

その原題が、

“Be kind rewind”.(巻き戻してお戻しください)

 

 

トレイラーの中でも出てくるけれど、ジャック・ブラック扮する主人公が、とあるできごとにより体が磁気をおびるようになってしまい、その影響で店においてあるビデオを全部だめにしてしまう。そのジャック・ブラックに対し、モス・デフが言い放つ”You are magnetized!”に滲み出る「おめーやっちゃってんじゃねえかあ」なトーンがとても好き。

で、店のビデオ全部だめにしちゃった彼らは、苦肉の策で、名作の再撮影をはじめる。が、これまたなかなか香ばしい出来で、まさかそんな映画借りていく人いないよねと思いきや、という展開。ミシェル・ゴンドリー監督作品は私、好きなのとそうでもないのがあるのだけど、この映画はとても好きですね。ラストは、映画好きならきっと切なくなる。

ビデオが当たり前だった時代があった。巻き戻して返すのがルールだった時代があった。時代は移り変わる。映画の媒体も移り変わっていく。分厚かったVHSビデオが薄いDVDに取って代わり、今やそのDVDもオンライン配信に取って代わられようとしている。

私はまだビデオを両腕いっぱいに抱えた重みを覚えているよ。

とほ