[再録] 白い船

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創作

 

🚢

靴箱の上から
白い船が落ちてきて
僕に乗船しろという。

まだ靴もはいてないし
誰にもさよならを云ってないし
と、しぶっていると
白い船はあっさりあきらめて
今にも出航しそうないきおいなので
僕はあわてて飛び乗る。

すると僕のほかには誰もいない。

だましたな、
と云うと
何をだますもんか
君のうちから出航するんだ
最初はひとりであたりまえだろう、
と、涼しい顔で白い船は云う。
君の好きな場所に寄港するから
好きな人を乗せたまえ、
なんて云う。

乗ってみると白い船は意外に大きくて、
好きな人全部乗せてもすかすかだな
第一明確に好きな人など
僕にはあまりいないのだった、
と、ひとりでつぶやいていると
白い船は自信ありげに
大丈夫さ
好きな人なんてこれからいくらでもつくれる
だって私は白い船なんだからね、
と、胸をはって云う。
君は運がいいのさ
黒い船や灰色の船が
落ちてくるやつだっているんだから、
友達がたくさんいたってね。

僕は急に白い船が
頼りのあるやつに思えてきて
デッキチェアに腰掛け
長くなりそうな気配の船旅に備えて
少し眠ることにする。

そうして目覚めたら夢だった。

なんてことはなくて、
目の前にはいつのまにか
広い空間と海がひろがり
ああ、準備などしなくても旅なんて
きっかけ一つで出ることができるのだな、
としみじみ考えていると、
遠方に島がみえる。
知らない島だったが無性に懐かしい気がする。

白い船は
あそこに寄るかい?
と云った。

fin.

 

 

※大昔にどこかで書いた物語のような詩のような。