星の旅人たちと行くサン・ジャックへの道 32日目:『星の巡礼』との奇妙なリンク。

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サンティアゴ巡礼

 

5月24日 少しの霧のち早めの晴れ

到着した村にはアルベルゲの前に川があり、世界一周後の二人に教えてもらったように、氷のように冷たい川に足をつっこんでひやす。これで今日は、足の熱で夜中に目覚めないといいのだけど。ひゃーひゃーいいながら浸している間にも、川にかかる橋の上を次々にペレグリーノたちが通り過ぎていく。

今日の通過地点の町メリデでは、結局またタコ料理食べてしまった。ブラジルオリンピックの年に「星の巡礼」を知り読んだことがきっかけで今年でカミーノ5回目というカナダ在住の韓国人夫婦と一緒に歩いていたのだけど、メリデに入るとなんとなく海藻のような匂いがしはじめたところにおすすめの店を教えてもらったこともあってついふらりと。昨日より量も多く身も厚くておいしかった。けど、もうタコはいいな。いろんな意味で。

星の巡礼。

再読継続中なのだけど(遅。

ドン・キニョーネスの逸話を読みながら、文章から浮かぶ景色に、書かれてあるのは、23日目の朝に気持ちよく通り過ぎたオルビゴ村に違いないと思った。調べてみると実際そうだった。史実だったのだ。

さらに、アストルガ、フォンセバドン、鉄の十字架・・・どんどん通り過ぎてきた場所の名前がでてくる。さらに知る。主人公(パウロコエーリョ)も道の途中で石を拾っている。

この本ゆかりの地としてガイドブックに書かれていたのはなぜアソフラのみだったのだろう。もっと重要な場面は、鉄の十字架に向かう直前、フォンセバドンで起きているのに。本の中でフォンセバドンは廃墟だ。昔は確かに廃墟だったらしい。重要な場面が起こったあと、その出来事による置き土産として「いつかフォンセバドンは廃墟から立ち上がるだろう」とその章はしめくくられている。その通り、今、フォンセバドンは廃墟から立ち上がっており、居心地よく見晴らしのよいアルベルゲやバルがわたしたちペレグリーノを迎えてくれる。翌日の鉄の十字架に備えて、最も近い宿泊地として。

実のところ、彼女の言葉がなければ、この本を読み返すことはなかったのだ。いくら今自分がその道を歩いているとしたって。ガイドブックや星の旅人たちに、その題名が出てきたとしたって。

一年に半分ずつモロッコと日本を行き来しながら独自のビジネスの道を進もうとしている彼女とは、パリの外れの森で行われた共通の友達の結婚式で出会った。共通の友人もそれぞれにとって大切な友人で、その友人から互いのことは聞いていて、でも結婚式であった時はまだ相手がそうと知らず、なんとなくふっと近寄って話す瞬間があり、最後の数十分で意気投合して、翌日ご飯を食べる約束をしたのだった。そして、翌々日には出国する彼女と、セーヌ川沿いのレストランで、背後ではサッカーにもりあがるなか、気づいたらお互いの半生まで話していた。ずっと年下だけど、年齢は関係ない。ひとりで立ち、何かを築こうとしている人にわたしはとても惹かれる。似た匂いを感じるせいかもしれない。といっても、わたしより彼女の方がずっとずっと愛の人だけど。

その彼女がいったのだ。今年の2月。日本滞在中にたずねてくれたわたしの家で。昔読んだ時は正直ピンとこなかった、それが長い時が経ってあるきっかけで二度めに読んだ時にすうっと内容が入ってきたのだと。言葉は違っていたかもしれないけれどそのようなこと。これが彼女のことばでなければ響かなかったかもしれない。真理を語っている本ではある。読んだ当時はそれなりにわたしなりに響くものがあった本だけど、長い年月と自分の中の変化により、この本をバイブルのように目を輝かせて言う人がいれば、そっと障子をしめて遠ざかるような、一旦遠ざかって観察体制に入るような部分もわたしにはある。

でも、今読み直していて、彼女の言葉がとてもわかる。この道を通りながら読みなおすことになった意味を考えている。

ガリシア州に入ってから公営アルベルゲのワイファイが若干めんどくさいシステムになり、今日泊まっている小さな村では、オレンジが圏外だった。いさぎよく今日の更新をあきらめ、妙にたっぷりある時間の中で今日はこの本を読みきることにした。

その間に激しい雨が降り出していた。天気予報はこのあと数日ずっと雨。今回は天気予報あたったか。あと2日でサンティアゴというのに。その場にいたスペイン人と残念がったりしながも、ほかにだれもいないキッチン空間で読み進める。

主人公が探し求めていたものを手にするもっとも重要な場面にさしかかる。本の中でも雨が降っている。現実と本が奇妙にリンクしている、と思う。わたしが通り過ぎ、目にし、経験してきた町や景色、それに伴う感情に、物語が寄り添っている。つまり、この本もまた、主人公の物語(半自伝)でありながら、同時にわたしを含むこの道を歩くすべてのペレグリーノの、これから歩くかもしれない読み手の、物語でもあるのだ。

と、わたしが感じているのだった。結局それだけに過ぎないし、それがすべてでもある。

読み終えた今、雨が止み、鳥の声が聞こえている。明日は雨が降るだろうか。

 

出発地:パレス・デ・レイ(6:15出発)
到着地:リバディソ・ダ・バイショ(14:15到着)
歩行距離:26km

サンティアゴ・デ・コンポステーラまでの「フランス人の道」780km巡礼日誌。
「星の旅人たちと行くサンジャックへの道」とは、巡礼路を歩くきっかけとなった『星の旅人たち』と『サンジャックへの道』という2つの映画タイトルを合体させた旅タイトル。センスがよろしいとはいえないこの映画タイトル合体旅タイトルはブログ主が得意とするところらしいという噂(前科あり)。時に、星の旅人たち=ホシノ、サンジャックへの道=サンジャで略すことあり。なお、ロケ地巡りという性質を含む行程である以上、関連場所を通過する際に映画の内容に触れることがあります(ネタバレ宣言参照)。ラストにどんでん返しがあるタイプの映画ではないですが、ネタバレ過敏症の方は注意。