車は出発してすぐにガソリンスタンドに入りました。
「ガソリンいれている間に、荷物整えとくといいよ」
男性はそう言うと、私たちを残して併設のお店に入っていってしまいました。
あの、私たち、初対面ですよね?
なにこの信用されぶり。
それとも何も考えてないのか?
それとも何か‥‥‥ウラがあるのか?
ウラはなさそうな人ではあるけれど。
再出発後。男性は、ファーディと名乗りました。
年は30代半ばくらい。なかなかのハンサムさん。ぴち目Tシャツにレイバン風サングラスのせいか、アメリカ人のようにも見えます。が、カジュアルないでたちながらきちんとした印象も受けるところはやっぱりイギリス人?
ウェールズ出身と聞いて、CB話を反射的に出してしまったのはファンのサガでしょうか(赤面)。ウェールズ出身ということ、普通な感じで知ってらっしゃいました。
お互いに自己紹介をしあった時の話では、ある著名なフォトグラファーの各国での展示会のマネージメントのような仕事をしているとのことでした。
私たち「停まってくれてほんとにありがとう」
ファーディ「迷ったけどね、君たちが見えて合図するまでの短い間にいろいろ考えたよ。屈強な男だったら乗せなかったよね」
冗談めかしてはいましたが、そうだろうな、と思いました。ヒッチする側としてリスクはある程度覚悟していましたが、リスクがあるのはされる側も同じ。
ネットでは、女性の方が成功率が高いという説も見かけ、ヒッチする側として勇気づけられたのですけど、される側の心理も考えるとうなづける話です。ヒッチハイカーが女性ふたり、というのは、乗せる側からすれば、安心材料なんでしょう。
とはいえ、赤の他人であることに変わりはないわけで。そこをほぼ一瞬で判断して、ドア開けてくれるところまで行くって考えたらすごい低い確率だし、あらためてありがたい話だよなあ。
ファーディは、自分が拾ったこと自体も含め、私たちのことをおもしろがっているようでした。
私たち「この国でヒッチハイクする人っている?」
ファーディ「めずらしいよね。最近は早く予約すれば長距離でも2、3£で移動できるし、わざわざヒッチハイクする必要ないからね」
‥‥‥。ちがうのー、これはー、お金じゃないのー、実験なのー。
それはいいとして、この人の英語、わかりやすい。ロンドンでは聞き取れないことが多すぎてがっくりきてたところだったので、なんとなくほっとしました。といいつつ、ほとんどはマメ子におまかせ状態だったんですけど。
ナリタでのランディングが今まで生きてきて最も怖かったよ、、
今日はブリストルの子供に会いに行くところなんだ、、
などなどの会話が、前の席で交わされていたのはうっすら覚えているのですが、天気もよかったし、ぽかぽかして、その、わたくし‥‥‥後部座席で寝落ちてしまいました。すまないマメ子。
「ねえねえ」
どれくらいたったでしょうか。
マメ子がこっちを見ています。
時計を見ると11時を過ぎていました。
ブリストルまでは約2時間の距離。
マメ子「降ろす場所どこがいいかって。どうする?コーンウォールまでヒッチ続けるんだったら、ブリストルはむずかしいんじゃないかって言ってるんだけど。バスでグラストンベリーまで行った方がいいんじゃないかって」
ファーディ「オルタナティブの人々がいる町だし、あそこならヒッチもしやすいと思うんだ。グラストンベリーに行くならバスターミナルまで行くよ」
とっさにグラストンベリー案を示され。
迷いました。
現地の人のアドバイスは聞いた方がいいかもしれない。
でもバスかあああああ。
それ選んだ時点で全行程ヒッチハイク達成は消える‥‥‥
って全行程ヒッチを目的にしてたわけじゃないけどさ‥‥‥
かといってこんなあっさり公共の乗り物使うのもなあ‥‥‥
それにブリストルは難しいというのはこの人の意見で‥‥‥
うんぬんかんぬん。
1日で行ける可能性が高い方法をとりたい。
ブリストルでは高速付近で待つことになるというのを聞いて、安全面やマメ子と事前に話していたいくつかの理由からそれはできるだけ避けたい、という気持ちもありました。
しかしこれも運。ファーディのアドバイスを聞くことにしました。
11時半を少し回ったあたりで、ブリストル到着。バスターミナル裏手の路地のようなところで、ファーディは私たちを降ろしてくれました。
「写真撮っていい?」ときかれ、ひとりずつ記念撮影。よかったらお昼に使ってください、とささやかなお礼を渡し、握手してバイバイしました。
今日あたり彼のSNSにわたしたちの写真アップされるだろうかもね、なんて話しながらバスターミナルへ。
やがて、グラストンベリーの中心地ハイストリートにバスが到着。運転手さんに、ヒッチハイクのことを告げ、ここで降りていいか尋ねると、そのまま乗っておくように言われ、やがてヒッチしやすそうな車の合流地点で降ろしてくれました。
14時前。日が暮れるのはこの時期は21時過ぎ。まだまだ時間はあります。
さあ、とまってくれる車、あらわれるでしょうか。
つづ‥‥‥
とその前に、グラストンベリーを経由することに対するもんもんについてもう少し。
グラストンベリー。ファーディ言うところの「オルタナティブ」な人々が集う町。いわゆるスピリチュアルスポットとしても知られています。それとも、音楽好きな人にとっては、世界最大のロックフェスティバル開催地としての方が有名でしょうか。
『コーンウォールの森へ』のロケ地としてすでに旅程に織り込み済みではあったのですが、ロケ地云々抜きにしても、マメ子とわたしがともに今回のイギリス旅で行きたい場所の筆頭にあげた場所でもありました。
ケルトの聖地であり、アーサー王伝説の島「アヴァロン」ではないかという説もあります。そのケルトというキーワードが、ロケ地動機以外でコーンウォール&グラストンベリーを旅行先に選んだ理由と大きく関係しているのですが、それは一旦横におきまして。
この町を象徴する場所としてトールという小高い丘があります。
『コーンウォールの森へ』の冒頭とラスト、ボビーがすわって、クリアになった心で昔を回想しているのが、そのトールの丘のふもと。
その回想シーンとして、コーンウォールの次に行く予定でいました。その記事は時系列に沿ってこの先アップするとして。
わたし、グラストンベリーが出てくるのはその場面だけだと思い込んでました。重要なシーンを、すこーんと忘れてたんです。ヒッチハイクするんならここ覚えとかなでしょうという重要なシーンを。そらもうすこーんと。
でもそれに気づいたのはつい最近、この記事を書くために映画を見なおしていた時。
いったん話はヒッチハイク中に戻りまして。
ファーディのアドバイスを受け入れながらも、グラストンベリーに向かうバスの中ではもんもんとしていました。
出会う人や選択も運のうち、というところを楽しんではいたのですが、あっさりバス使ってもうたな、というところを往生際わるくもんもんとしてました。
ボビーがどういうルートで行ったかは映画の中では出てないけど、けど、けど、グラストンベリーを経由するのはやはり本来のヒッチハイクの目的からはずれすぎではないだろうか、と。
映画の中では出てないけど。
↑どのくちが。
そもそも、最初、旅人たちに拾われたシーンに大きなヒントは隠されていたのに。
その人たちのよそおいがなんとも「オルタナティブ」。背後に流れる音楽もまたなんともオルタナティブなにほひ。まるでとある場所をこれでもかと示唆しているかのように。
そして極めつけは次のシーン。
車の向かう先、正面の小高い丘の上に見える塔のような建物。
あれトールじゃないか。
場面が切り替わってそのトールがうつった時点で、イギリス人またはイギリスに詳しい人なら「ああグラストンベリーにきたのね」とわかる仕組みだったんでしょう。
‥‥‥。
知らーんよー。
そんなぜんぶおぼえとられんてー。
この時点ではまだ行ってないんだもんー。
が、そういう言い訳もできなくなる決定的場面。
オルタナティブ旅人のデズさん、ボビーを降ろす時に道を説明するのですが。
全編聞きとるのは無理なので、聴覚障害者用の字幕つきで見ていたところ(日本語字幕つきVHSは持ってないので)
Des: Okay, this is Glastonbury.
We turn off here for Avalon.
You’ll easily get a ride from here.訳:
デズ:ここがグラストンベリーよ。
わたしたちはここからアヴァロンに行くから。
ここならあなたもヒッチハイクしやすいと思うわ。
言うとるがな。グラストンベリーはっきり言うとるがな。
つまり。ボビーも思い切りグラストンベリー経由してました。しかも、デズさん、ファーディと同じアドバイスしてます。
これ知ってたら、もんもんとせずにすんだのに~~。
さらなる追い打ち。
そもそも、なんで「1日で行く」にこだわっていたかというと、前回も書いたように旅程的都合もあったのですが、ボビーが1日で行ったかもしれない、という思い込みもあったんです。
でもね。
日が暮れていくシーンで再登場するトール。そのふもとでね。
ボビー、1泊しておられます。
_| ̄|〇
のろうぜ、マイ海馬いしころぼう。
はからずも同じルートだったことはうれしいよ、正直けっこうかなりうれしいけどさ、じゃあ、あの「1日で行く(にぎりこぶし)」はなんだったのであるか。
などと考えているのは、今現在のトホなのでして、過去のトホのためにも、ブログでは、「ヒッチで1日で行けるかな♪実験」をおしまいまでレポートしたいと思います。
果たして、マメトホコンビ、この日のうちにコーンウォールにたどりつけたのでしょうか。
つづく。