クストリッツア巡り in ベオグラード:『アンダーグラウンド』・・・?

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エミール・クストリッツア

アンダーグラウンド
原題: Underground
公開:1995年(日本は1996年)
171分 (通常版)
監督:エミール・クストリッツア
出演:ミキ・マノイロビッチ、ラザル・リストフスキー、 ミリャナ・ヤコビッチ他

※あらすじ、場所の説明含め、今回の記事は全体ネタバレ色濃いです。注意。

あらすじ:
1941年4月、第二次世界大戦中。パルチザンから共産党員となったマルコと元電気工のクロはベオグラードで武器を売ったりしながら暗躍。マルコの弟イヴァンの働く動物園などベオグラードが爆撃されたのをきっかけに、人々はマルコに連れられて地下施設に避難した。続いて女優で愛人のナタリアをドイツ人将校から連れ戻す際に瀕死の重傷を追ったクロも地下に運び込まれる。そのまま15年、実際には時計の針を操作され20年、クロ、地下で生まれたクロの息子ヨヴァン、マルコの吃音の弟イヴァンとその相棒チンパンジーを含む人々は、マルコによって地上で売りさばかれているとも知らずに武器を製造しながら地下生活を続けることになる。その間にマルコは地上でナタリアと恋仲になり結婚、チトー大統領の側近になりあがっていく。やがて人々が外に出る日がやってくる。初めて見る地上に目を輝かすヨヴァン、ユーゴスラビアがもうないことを知り兄の裏切りを知ったイヴァン、そしてクロ・・・第二次世界大戦からチトー政権、冷戦時代を経て、ユーゴスラビア崩壊までの約50年を描く壮大なクロニクルおとぎ話。

 

A:ベオグラード要塞/カレメグダン公園(Kalemegdan Belgrade Fortress)
B:ベオグラード動物園 (Belgrade Zoo)
C:ベオグラード国立劇場(National Theatre)
D:ベオグラード国会議事堂 (National Assembly)

 

ベオグラード要塞/カレメグダン城址公園

Visited Belgrade as a film location of Underground directed by Emir Kusturica in Serbia
Visited Belgrade as a film location of Underground directed by Emir Kusturica in Serbia
Visited Belgrade as a film location of Underground directed by Emir Kusturica in Serbia

Visited Belgrade as a film location of Underground directed by Emir Kusturica in Serbia

冒頭、クロやマルコが楽隊とともに雄叫びをあげながら駆け抜けていくシーン。

通常版ではわかりにくいのですが、今年の10月に恵比寿で観た5時間強の完全版(※)では、写真の像や外壁など、ここだと認識しやすいシーンがもっとありました。人々が荷物をもってマルコに連れられ、地下に逃げていく時通るのも多分ここと思う。

旧市街の中心部である共和党広場から徒歩で行けます。

 

ベオグラード動物園。

マルコの弟イヴァンが飼育員として働いており、爆撃にあう動物園。この爆撃は1941年の史実。

ここね、行ってません。はて、なんで行かなかったんだろう。
という取りこぼしがまま発生するのがとほクオリテイ。

 

ベオグラード国立劇場。
Visited Belgrade as a film location of Underground directed by Emir Kusturica in Serbia

共和党広場にある矢印の建物です。女優ナタリアの演劇の舞台。中入ってないので未確認ですが。

というか白状しますと、手前に騎馬像がありますよね、その背後が国立博物館なんですが、こっちと間違えてたんだよーーだ。こっちの写真ばっか撮ってて、さっきあわてて国立劇場が写りこんでいる写真探したんだよーだ。

というようなことがままあるのがとほクオリテイ。
覚えましたね。ここテストにでます。

 

国会議事堂。
Visited Belgrade as a film location of Underground directed by Emir Kusturica in Serbia

ロケ地というか、実際の映像を使って史実を見せるシーンが幾つかあり、その中で当時の建物として登場するのでロケ地というよりは舞台ですね。まぎれもない歴史上の。

1941年のナチス爆撃から、ユーゴスラビア共和国が誕生しチトーが亡くなるまでが歴史上の重要人物たちとともに垣間見られるとともに、

実際の映像をただ流すだけでなく、その中に登場人物が写り込んで、ナタリアが行進の前ではしゃいで手をふったり、マルコがチトー大統領と握手したりしており、より臨場感が、というよりは、ちょっと遊びすぎな気がしなくもなくも(笑)

フォレスト・ガンプとかカップヌードルとか、一時期この手法、映画やCMでよく見かけたので、監督、使ってみたかったんだろうな、なんて。

Aは自力で見つけてましたが、A、B、CはWikipedia(英語版)を参考に。ちなみに日本語版Wikiでは、場所名は省略されていて載っていません。

ついでにIMDbに載っているロケーションは以下。

・ブルガリアのプロヴディフ、ソフィア
・セルビアのベオグラード
・ドイツのベルリン(国会議事堂、ティーアガルテン)
・チェコのプラハ(AB Barrandov Studios)

ベルリンは、イヴァンが地下通路を抜けて向かった先で病院に収容されてしまい、真実を知るシーンでしょうか。

プラハはスタジオとあるので、映画の要である地下世界はここで撮られたのかな。

カレメグダン要塞の話に戻りますが、ここへは書いた旧市街の中心部から
自力で徒歩で行けるのですが、私はとあるツアーに参加し、その一環として行きました。

インド・ムンバイでのダラヴィスラムツアーもそうでしたが、現地について初めてツアーやってないかネットで探るというのがだんだんパターンになってきている気もしますが、今回もそうやって、belgrade, undergroundなど幾つかのキーワードで探したところ、出てきたのがこちら。

「アンダーグラウンドの秘密」ウォーキングツアー。

Belgradewalkingtours.com
UNDERGROUND SECRET OF BELGRADE

待ち合わせ場所:共和国広場のミハイロ公の騎馬像後ろ。
待ち合わせ時間:月、水、金の午後3時
金額:10EUR(1200RSD) 待ち合わせ場所で現金支払い。
所要時間:2.5~3時間

 

翌日やるよ、予約いらないよ、時間になったら待ち合わせ場所きて、黄色い服来たスタッフ待ってるから、という気軽さだったので、行ってみることにしました。

 

Underground tour in Belgrade, Serbia

共和国広場に3時少し前に到着。

人はほとんどまだ来ておらず、黄色い服を着ためっちゃ感じ良い、はぎれのよい美人さんが迎えてくれました。

Underground tour in Belgrade, Serbia

20分くらいかけて人集合。この日の参加者は15~20人くらい?
独り、友人同士、カップルなど、各国、主に欧州からの個人旅行者。

ドイツ在住の日系企業で働く日本人男性が参加していたので、なんとなく行動を共にすることに。

Underground tour in Belgrade, Serbia
Underground tour in Belgrade, Serbia
Underground tour in Belgrade, Serbia
Underground tour in Belgrade, Serbia
Underground tour in Belgrade, Serbia
Underground tour in Belgrade, Serbia
Underground tour in Belgrade, Serbia
Underground tour in Belgrade, Serbia

ざっと内容を書くと、

ベオグラード市立図書館(中に入らず)、カレメグダン城址公園、ベオグラード要塞、チトー提督の隠し武器倉庫だった地下施設へ、その後ドナウ&サヴァ川を眺めながら下っていき、ローマ帝国時代の遺跡が置いてある建物へ、最後に洞窟ワインバーでワイン試飲&ダンス、解散、という流れでした。

ワインは、できたてほやほやというか、うんエタノールだね!という味でした。

街歩きウオーキングツアーとしては、3時間程度とほどよく、人も感じよく、参加してよかった、だったんですけど

ほら、やっぱりさ、

”クストリッツアの旅”でアンダーグラウンドツアーって聞いたら、あのアンダーグラウンド?って思うじゃないですか。

ちがいます。ちがってました。
ってわかってて参加したんですけど。

行くまでは往生際悪く、ひょっとして映画の話でないかな、とか、ヨーロッパの各方面につながる通路やら巨大地下生活空間があるんじゃねかな、とか(←ないない)、期待しちゃった人がいたとかいなかったとか。

ま、でも、そか、チトーね、隠し武器倉庫ね、ということで当然ですけど普通の地下壕でした。普通といっても、ヒッチコックが生前訪れて『めまい』のインスピレーションを得たという深い深い井戸もあったりしますし、施設としてはそれなりにすごいんですけど。

そういえば、ネットで検索した時に、underground b…と打ちかけただけでベルリン始め他の都市のアンダーグラウンドツアーがざっと出てきたので、各地に結構こういう地下ツアーはあるのかもしれないですね。

インドの階段井戸巡りみたいに、各国のアングラツアー巡りをテーマに旅するもの面白いかもしれないな。アングラと略すと途端に怪しくなりますが。

そういえばトルコのカッパドキアにもかなり独特な地下都市ツアーがあったな。あれは完全に住居施設としても機能する地下でした。

最後に映画の感想を少し。

この映画、最初こそコミカルですが、話が進むほどに深刻さが増していく、だけど深刻にとどまらない魅力があることは、私がわざわざ言うまでもないかと思います。

その魅力を担っている大きな要素が、微細でいきいきした地下生活の描写。

隠された地下都市とか地下通路ってなんだかすごくわくわくしませんか。私だけかな、それは子供の頃に、木の上にハックルベリー・フィン小屋的な空間を自分で作る、と考えただけで覚えた言い知れないわくわくと近い気もする、けれど、地下に都市があって、そこで人々が生活している空間があるって、ある種独特な高揚を呼び起こされる。

この映画では、知らず知らずに武器を製造させられていたりする一方で、同時に髭をそったり、シャワーをあびたり、愛を交わしたり、結婚式を執り行ったりと、人々の普通の生活が営まれている。

私にとってアンダーグラウンドは、最後の数分間に全て持っていかれる話だけれども、「昔あるところにある国があった」、この言葉により幕が開き閉じる、その間に横たわる長い物語がなければ、最後の数分にあれほど持っていかれることもないわけで、だから最後だけを知ればよい話には到底なりえず、

彼らの「地下生活」をリアルに体験すればするほど、その長さを、失ったものを、感じ取れば取るほど、最後のクロの許しの言葉が胸にせまります。本当、あれほど軽やかになされる重い許しはない。

もちろん実際の歴史が背景にあるからこそのリアルもあるのですが、それを、その国出身の人間がこのように描いた魅力ははかりしれない。

ラスト。

画面のこちら側にまっすぐ視線を向けて、吃音の消えたイヴァンが穏やかに語ります。かつてあり今はない国の話を。

そこに最後の一文。

泣き笑いしながら、ははは、そっか、そうだね、となるしかない。

人生は楽団パレード。

題材は時代、歴史、史実でも、わたしには、生のおかしみと喪失と許しの物語でした。


 

以下に、自分整理用にざっと作成した、第二次世界大戦のナチスの爆撃からユーゴスラビア建国&分裂、独立を目指す各国の紛争終結までの簡単年表を載せておきます。

自分用にネットから拾って簡略化した年表なので、間違いを発見した方はお知らせいただけると助かります。

1941年 ドイツ、ナチスのユーゴスラビア占領。チトー、パルチザン部隊創設。
1945年 ユーゴスラビア連邦人民共和国建国。
1953年 チトー、ユーゴスラビア初代大統領に選出。
1980年 チトー死去。
1989年 東欧革命
1991年 ユーゴ解体へ(10年に渡る内戦始まる)
1991年 スロベニアの独立宣言から十日戦争勃発。
1991年~1995年:1991年6月クロアチア独立宣言をきっかけにクロアチア紛争勃発。
1992~1995年 1992年ボスニア・ヘルツェゴビナ独立宣言。内戦へ。
1998~1999年 コソボ紛争。セルビアのコソボ自治州の独立を巡る内戦。
2001年 マケドニア紛争。
2008年 コソボ独立を宣言。クロアチア承認。

 

(※):完全版は5時間ちょっとありますが、わたしはまったく退屈しませんでした。通常版の構成ですでに完璧なんですけども、バタ(ナタリアの弟)のその後や、少し唐突に感じていたマルコとナタリアの関係性がしっかり描かれていてすっきりしたし、地下での生活もより具体的にいきいきと感じ取れました。初めての方も通常版がお好きな方もこの機会にぜひ。というか完全版のDVDでないかな。