前回に引き続き、川棚温泉の話。
下関市の奥座敷とも呼ばれている川棚温泉。
かつて大きな沼地だったその地には、こういう言い伝えがあるそうです。
昔、とようらの森の奥深くに青龍の住む泉があった。
泉はどんな日照りでも枯れることがなかった。清らかな泉の水により、田畑では豊かな農作物が、浦々では大量の魚がとれ、人々は幸せに暮らしていた。
ある時大地震が起こり、一晩で泉は熱湯に変わり、埋まってしまった。青龍も住む場所を失い、病気になって死んでしまった。
その後続いた日照りで作物は枯れ、人々は疫病に苦しめられた。村人たちは青龍を祀るお社を作り、守り神として自分たちの生活を守ってくれるよう祈った。
ある時、村人がかつて泉のあった場所を掘ると温泉が湧き出した。温泉に入ると、人々の病気は癒やされた。
しかし月日が巡り温泉が枯れると、人々は青龍のことを忘れてしまった。ふたたび日照りと疫病に苦しむ日々がやってきた。
川棚の小高い丘に立つお寺の住職は、人々を救いたい一心で祈り続けた。ある晩、住職の枕元に薬師如来がたち、青龍の伝説と不思議な温泉の話を告げた。
霊告をもとに温泉は再び掘り起こされ、湯を浴びた人々は病いから回復した。
二度と忘れることのないよう、人々は青龍を温泉と村の守り神としてお祀りし、祈りを欠かさないよう務めた。以来、温泉は枯れることなく沸き続けている。
川棚に伝わる青龍伝説。
白状すれば、下関出身者ながら川棚の青龍伝説のことは知りませんでした。もしかしたら下関市とか山口県一帯の伝承のひとつとして幼い頃に耳にする機会があったのかもしれないけれど、記憶にはなく。
ただ「青龍」については、昨年、家族で小串の海にドライブに行く道すがら、JR川棚温泉駅前を通りがかったときに車内で話題にのぼってはいました。確か駅のすぐ近くに青い龍の像と青龍神社の看板があって、それを目にしたのをきっかけにだったかと思います。
でも、山陰ドライブ好きの一家としてはそれまでも目にしたことがあったはずで、なのにその時初めて話題にのぼったのはなぜなのか。いえ、もしかしたらそれまでだって話題にのぼっていたのかもしれないけれど私の脳がスルーしていたのかもしれない。それが、いつごろからか勝手に弁才天を推すようになり、同一視されている市杵島姫命、サラスヴァティに関連する場所あわせてめぐりがちな人となり、
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これらの神様はみな水になじみが深い神様で近くには龍を祀る場所も必ずあることもいつのまにか自分の中で同じ括りとして自然に認識するようになり、だからその神様グループ(?)にたいするアンテナが鋭くなって、目にとまりはじめたということかもしれません。いわゆるカラーバス効果というやつ。
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ともかく、そんなふうに自分の中にも龍の住む泉がいつごろからか存在し始めた中で、川棚には1年に1日だけ姿を現す龍神がいるというのを今年の4月、私がまだインドにいるときに母から電話で聞き、しかも姿を現す日は私が帰国しているあいだであり弁才天に巡り会えたあの場所だときけば、そらもう行く行くとなるのは自然のなりゆきでした。
といっても電話の時点では詳細はまだよくわかっていなくて、あの食事処でまたランチできて弁才天さんにもお参りできる?行く行く!みたいな軽めのノリではあったのですが。汗。
龍の正体。
種明かしをすれば、1年に1度姿を現す龍とは、巨大な龍の墨絵。そしてその絵を描いたのは、『藤屋~fujiya~』のオーナー、伊藤建一さん。そう、前回の記事でもご紹介した切り絵の作者さん。
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その日は、年に一度の川棚温泉祭りの日でもあり、本当は多分夜が本番で、龍も15時からのお披露目ということでした。夜まで待ちたい気持ちもあったのですが難しく、日中に行ってお昼を食べたあと時間を潰しながら15時を待とう、ということになりました。
墨絵が展示されているのは、昨年お参りした弁才天のお社がある龍福山・妙青寺の本堂。
まずは本堂の裏手にある雪舟庭園にいって、弁才天を再びお参りさせていただきました。それから庭園の脇からのぼっていった小高いところに稲荷神社も発見して、そちらにもお参り。
境内のあちこちに灯りの用意がしてあって、夜はすごく厳かできれいなんだろうなあ…と夜に来られないことを少し残念に思いながらも、この日の主役が待っている本堂に向かいます。
15時より少し前でしたが、大丈夫ですよと言っていただいていたのと、境内におられた住職さんにも断って、中にあがらせてもらいました。
本堂に入ってすぐに感じたのは、澄み渡る空気。私は神社も好きですが、お寺はお寺で神社とは明らかに異なる静寂があって好き。この本堂もとても落ち着く場所でした。
その龍は入ってすぐに目に入っていたのですが、まずははやる心を押さえてお香をあげ、手を合わさせていただきます。
そうやっていると、伊藤さんが龍の背後から照らすライトを持ってきてくださいました。私たちが恐縮していると、いや僕がそうしたかったから、と明るくおっしゃていただき。
背後からの灯りに浮かび上がる龍神の墨絵は本当に見事でした。
命が宿るというのはこういうことだ
とかとか、足りない語彙で語るのは野暮すぎる気がしたので、偶然この記事を読んだという方は、それは青龍に呼ばれているので、ぜひ来年の龍神が姿を現す日に下関の川棚温泉に行って、ぜひ肉眼でみてみてください、とだけ書いて終わりたいと思います。語彙がない理由ではけけけして。
いつも逢える龍もいる!?
ただ、1年に1度の機会をつかむなんて無理だよお、下関遠いよお、という遠方のあなたにも朗報。だいじょうぶ、実は、藤屋さんの2階階段をあがったところに常在する龍がいます。なので好きなタイミングで逢いに行けます。
その龍の目力に圧倒されたり各角度から眺め倒したあとは、すぐそばのギャラリーでスラムダンクの切り絵もぜひ。
お昼の三種類のランチと温泉とセットでぜひ。
藤屋~fujiya~ (立ち寄り温泉と食事処)
住所:山口県下関市豊浦町川棚5178
TEL:083-772-0397
定休日:月曜日、第4日曜日
営業時間と料金:
11:30~14:30(日替わり3種1200円。温泉とセットは2050円)
18:00~22:00(会席料理4400円~ 4名から)
JR下関駅からの行き方:
車:JR下関駅方面から約40分。※近くに無料駐車場あり
電車:JR山陰本線「川棚温泉」駅下車(40分)、徒歩27分
バス:サンデン交通35系統「川棚温泉」行き終点下車(1時間10分)、徒歩6分
まわしものかというくらい藤屋さん推してますが、何ももらってません。←あたりまえ
2回ご飯を食べにいっただけの一顧客ですが、川棚にはこういうユニークで磁場のよい場所があると知ってもらいたくて、記事にすると決めてました。
他にも川棚には
ほかにも今回川棚に来て改めて感じたのは、藤屋2階のものづくりの作家さんへの貸しスペース提供もそうですし、妙青寺でお祭りの準備をしている青年たちの活気や独特な外観のコルトーホールをはじめとする周辺施設の取り組みなどを見るともなく見ていて、明るい町おこしのエネルギーがある場所だなということでした。
でもそれだけでなく、やはり老舗の温泉旅館に泊まるもよし、やはり元祖瓦そばを押さえときましょうもよし、クスの森で国指定天然記念物の巨樹を見るもよし、川棚の楽しみどころはたくさん。
私も次帰ったときは、青龍湖や松尾神社(青龍権現)など、今回記事を書くにあたり調べていて初めて知った青龍伝説ゆかりの地を訪れたいと思っています。
とほ
どことなくコミカルななんともいえない目つきとフォルムにひとめぼれしてお買い上げ。