フムスが嫌いなアラブ人がいてもいい。

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映画語り

『テルアビブ・オン・ファイア』をDVDで観た。

 

劇場公開されていたのは知っていたし、パレスチナ問題を扱ったコメディということで気にもなってはいたのだけど、正直に言えば「だってテルアビブというからにはイスラエルの話でしょう」という気持ちもどこかにあり、なんとなく行きそびれたまま公開終了となっていた。

それとは別に、いつ頃からか私のTwitterのタイムラインにフムスのレシピや画像がいやに流れてきていたのだけど、なにかのはずみに、どうやらこの映画が原因らしいと思い当たった(私がフォローしているのは映画と旅界隈の人が主なので)。ふむふむ、観た人がフムスを食べたくなるような話なのね。

で、というわけでもないのだけど観てみたところ、詳しい話は避けるけど、なるほど、フムスが重要かつ小粋な小道具になっていて、確かに食べたくなる話だった。

フムス(hummus)は、中東諸国で食べられているひよこ豆をペースト状にしてレモン、にんにく、オリーブオイル、タヒニ(練りごまのようなもの)をまぜたものを平べったいパンにつけて食べる、いわばアラブ人のソウルフードのようなもの。私も中東を旅している時には何度も食べた。ちなみにトップ画像はエルサレムで食べた初フムス。

で、今日のタイトルが映画と関係あるかはさておき、フムスの嫌いなアラブ人がいてもいいよね、と思った。納豆やお茶漬けが嫌いな日本人がいてもいいし、チャイが嫌いなインド人がいてもいい。実際私のインド人友もチャイは飲まない。

もちろんフムスを心から愛するアラブ人が、チャイを飲まなくては一日が始まらないインド人が、朝は納豆じゃなきゃだめな日本人が、愛を熱く語るのもまたよい。ソウルフードへの愛を見るのは心地よい。フードにかかわらず好きなものを語る人から漏れ出る愛は心地よい。だけど好きでない人がいてもなんら不思議はない。例外もマイノリティも存在するからこの世界はおもしろい。好きにも嫌いにも背後にはストーリーがある。

冒頭の私のイスラエルに対する感情について少し。

白状すると、イスラエルという国に対して複雑な反感めいた気持ちと、一方でパレスチナに寄り添う気持ちがある。

それは中東を旅している間に立ち寄ったイスラエルへの旅がきっかけだったのだけど、たかが旅行者としてたった数日間その地で見聞きしたことと、それがきっかけとなって気になって気になって調べたことにより、パレスチナとイスラエルに対する見方は、行く前と後でがらっと変わってしまった。

現実では、個人に対しては、例えばひとり旅をしているイスラエル人と話すようなことがあってもそのような態度を取ることはない。あたりまえだけど。国家は国家。人は人。

でも記事やニュースでパレスチナ情勢を目や耳にする時には、とっさにイスラエルの対応に対して「むむう…」という気持ちが湧き上がりがちだし、パレスチナのアラブ人の状況が国際的にいまだ十分知られていないことに歯がゆさを感じる。とはいえ歴史に目を向ければユダヤ人にも長く虐げられてきた過去があるわけだから、本当難しく、パレスチナ問題に意識を向けると感情がとんでもなく複雑なことになる。

話がなんだか重くなってきてしまった汗。とにかく、そのあらわれが冒頭の「イスラエル”側”(すなわち現ユダヤ人)の話でしょう?」だったわけで。

普段映画を観る時には、自身の倫理観だったり嗜好は引き離してみている方なのだけど、それがうまく機能してなかったということなんだよね。でもそういうのは映画観る時に本当もったいない。そのとおり、もったいなかった。つまり映画はとてもおもしろかった。

まず観出してはじめて、ああこれパレスチナ側の青年が主人公なのか!と知った(監督はパレスチナ人、観たあとで知った)。じゃあよかった、という話ではないのだけど、それでも最初のうちは、エルサレムからの検問所で起きる事に対し眉をひそめながらみていて、つまり自分の実際の両国に対する寄り添いと反発とを持ったままみていて、でもそれを失笑するかのようなユニークな関係が、パレスチナ人の脚本家見習い青年と検問所のイスラエル人軍人の間で生まれていく。

プロパガンダ臭がする映画はどうしてもそっぽ向いてしまうわたしだけど、正直そういう作品は「映画」と呼びたくないところすらあるのだけれど、これはちゃんと「映画」だった。物語だった。おもしろかった。そしてフムス、めっちゃいきてた。

かといって、なんだーパレスチナ人とイスラエル人仲よいんじゃん~ちゃんちゃん、という話でもなく。

依然としてパレスチナ問題はある。それを描いてもいる。だけど、私が思っていたより、映画の中のパレスチナの人たちはずっと普通に暮らしていた。テレビ業界だってある。それも制作されたドラマがイスラエル側で放送されていたりする。

映画はリアルのすべてではない。でも知るきっかけとしての力も確かにある。

なんというか、全然現状を知らないのに少しだけ知ったつもりでいた日本人である自分にちょっと赤面したりもしましたよ、という観賞でもあったのでした。

あと「テルアビブオンファイア」ってそういうことねと知った時もふふ、となった。いや、おもしろかったです。

とほ