インバウンド景気に沸く日本が好きだった。

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旅語り

 

ソロキャンプを始めて河口湖駅に行く機会が増えた。

今回のキャンプまとめ。
若輩ソロキャンパーによる今回のキャンプまとめ。 スタイル: 徒歩ソロキャンプ。 車を持っていないので、電車やバスを乗...

河口湖駅といえば、富士山や富士五湖の観光の拠点となる駅である。

湖畔を中心にキャンプサイトが数多く存在することに加えて、重い荷物を運んでこなくてはならない徒歩キャンパーとしては首都圏から高速バスでさっと来れる利便性も大きく、昨年春から数えて3回来た。

それまででは、日帰り旅行として10年以上前に一度来た。数年前にも上京した母と来ている。

10年以上前(いや20年だ、考えてみれば)に来た時には、都内近郊から日帰りで来られる観光地ということでそこそこ賑わってはいるけれど良くも悪くも一観光地といった風情だった(個人的感想です)。駅周辺も特に印象に残るようなことはなく、バスでどこの湖だったかに行き、富士山を眺めて、ほうとうを食べて、温泉に入って、まあそれくらいで特にすることもなくなり、帰ろっかとなった(アゲインすみません、個人的感想です)。

数年前に母と来た時にはすでに雰囲気はがらりと変わっていた。周遊バスが増え、高速バスがひっきりなしに到着し、各国からの旅行者にあふれる場所になっていた。母と私は湖畔周辺を走る周遊バスを使って廻っていたけれど、どこにいっても外国人観光客にあふれていた。

途中、靴ずれのできた母が靴を買いたいからと近くのモールに行くのにタクシーを使った時に、運転手さんが外国人観光客増加による一帯の景気のよさを明るい声で話していたのを覚えている。それを聞いて、その時は、バランスが取れていれば地元活性化のためには喜ばしいだろうな、とはいえ、京都のような飽和状態になってしまうと地元の人には支障がでまくりだろうから難しいところだよな、なんて思っていた。

昨年の春、一度目のキャンプで来た時には、外国人観光客はさらに増えていた。エキゾチックなお寿司屋さんや天ぷら屋さんがあったり、ある意味他国で見かける怪しい日本のようで、なかなか愉快だった。首都圏に向かうバスの発着が増える夕方のごった返しも含めて。

それが先週、1年半ぶりにソロキャンプに来た時には一変していた。まるで20年前に戻ったかのようだった。自粛要請期間明け後に他の場所でも感じた閑散ぶりではないし、人も戻ってきているようだけれど、みな平べったい顔族、つまりほぼ日本の人たち。

少しせつなかった。

河口湖だけじゃない。ここ数年は、どの観光地も目に見えて外国人の姿が増えていた。都内は前からそうだったし海外の人がいる風景が珍しくなくなって久しいけれど、今年の3月までは、シロウト目でもわかるほど出かける先々が国際色豊かになっていた。もちろん主要都市や観光名所が多く交通の便のいい地域を離れれば全然そうじゃない場所もあっただろうことは承知している、とはいえ。少なくとも昨年までは、全体的に本邦で海外からの観光客誘致を後押しする空気があった。

インバウンドに関してはいろんな意見があるだろうし問題もあるのだろうけど、私個人としてはただただ単純に、様々な国の人が日本の風景の中にいるのが嫌いじゃなかった。とくに渋谷に来るたびに海外の人が闊歩しているのをみるのが楽しかった。昔は単なる待合場所だったハチ公前が列を作って記念撮影を待つような観光スポットになっていて、それをみるのがなんだか愉快だった。

昨年末に妹が来た時には珍しく短期間でがっつり「観光」として明治神宮、鎌倉、江ノ島を回って、インバウンドの高揚を実感した。日本人観光客のみを相手にしていた頃の寂れたやる気のなさそうな商店街もそれはそれで侘び寂び的に嫌いじゃなかったんだけれど(経済的には問題だったとしても)、鎌倉の小町通りなど見違えるほどいきいきとした店が増えていて、各店が工夫を凝らして商品やメニューを増やしているように私の目にはうつった。

渋谷は渋谷で、オリンピックに向け着々と新しい建物がオープンしたり完成間近だったりしていた。個人的にオリンピック競技自体には1ミリも興味がなかったけれど、それでもその時期の街を見ることは楽しみだった。スポーツの祭典という点では最初っからやってもやらなくてもいいスタンスだったけど、インバウンド的な意味では純粋に外国人が増える街を見てみたくて、そのためにその期間は旅に出るのはよそう、日本にいようと決めていたくらいだ。私はちょっとおかしいのかもしれないけれど。

と同時に、その楽しいなという目で見ている時点でも、建設ラッシュに対し、オリンピックというゴールに向かってなのか、その先を見据えているならともかく、上り調子ではないこの国で、妙に景気良さげにみえる空気を立て続けに放出していて、断末魔の叫びじゃないといいけど、なんて、なんにでも悲観的ではないはずの私でも、つい思ってしまったりもしていた。

そんなふうに呼び起こされるのは一つの感情だけではなかったけれど、基本的には、私もあなたがたの国を楽しんでまわらせてもらったように、どうか日本を楽しんでいってください、みたいな気持ちでいた。

それがまさかの今年である。本当世の中どうなるかわからないよねえ。

実際に延期が決まった時には、東京界隈の賑わいがみられないという点で残念に思う気持ちが大きかった。今後どうなるかはわからないけど、個人的には多分中止だろうと思っているけど、仮に催行されたとしても、少なくとももう私がみたかった世界はない。

コロナはきっかけに過ぎない。今までの世界は終わった。いつかまた旅ができるのだろうか。できるだろう。外国人も戻ってくるだろう。けれど、どこまで元に戻るのか違う形になるのか。

どこかではそれさえも観察対象と思っているようなところはあるけれど、どの業界もではあるけど、あえていうなら私は旅行業界に対して踏ん張って欲しい気持ちが一番大きい。航空業界もホテル業界も。飲食店でも商店街でも。

あのタクシーの運転手さんは今どうしているだろうか。

とほ