今この世でほしいものはただひとつファンタオレンジですカミサマ。
という状態でサミに戻ってきまして。 詳細はこのへんに。
飛び込んだ商店で、商品を陳列していた女の子に、
ファンタオレンジあるファンタ?と聞くも伝わらず
ガス入りのオレンジジュース?と聞くも首をかしげられ
オレンジのソーダ?には「ない」とすげなくきっぱりいわれ
がっくりきたところに「スパークリングならあるけど」と
オレンジ色の液体を差し出されました。
ねえさんそれですそれでいいんです。
即効レジをすませ、ごきゅごきゅと飲み干し、
生き返ったところで勝負にでることにしました。
コレリカフェの手前に一台だけとまっていたタクシーに近寄り
立っていた短髪、サングラス、皮ジャンの運転手さん相手に
サミからマンドラスビーチまでと(30分程度の待機込み)
その後スカラまで送り届けてもらうというコースで交渉開始。
金額は80ユーロ。
スカラ→サミですでに50ユーロ使っていますから
130ユーロにするには80にしないと。
倍以上の距離ですが、「いける」と踏んでました。
なぜかはわからないけれど確信がありました。
だってね、思ったんです。
タクシーに近づきながら、そのこわもてな運転手さんを見た瞬間に。
あ、この人、多分・・・・・だって。
90ユーロ以下にするのにちょいてこずりましたが(←「いける」は?)
最終的には「今90持ってるけど、これ払うと今日の晩御飯食べるお金がなくなる!」
という自分でもアレな方便により、80でぶじ成立。
こわもての運転手さんはこわもてのままいいました。
「水は持ってる?この先買う場所ないから、いるなら今買っとくといいよ」
実のところ喉の渇きはまだ癒やされていなかったので
トイレに行くついでに2本買って1本を運転手さんに渡し、いざ出発。
乗ってそうそう、マ・ビーチに行く理由を聞かれました。
『コレリ大尉のマンドリン』と伝えると運転手さんはうなづきました。
図にのった某和の国の古女子、さっそくCBの名を出してしまいました。
「彼、いい俳優だよね。『プレステージ』はおもしろかったな」
お、運転手さん、調子あわせてくれます。
聞けば、クリストファー・ノーランが好きだそうで。
そこから話題はデヴィッド・ボウイにうつり、ニコラ・テスラの話でもりあがり
島の映画館事情の話になり(2つあるうちの1つは屋外スクリーンだとか)
再び『コレリ』に話が戻ったかと思うと、撮影時の話をさくっとはじめました。
「サミでの港のセットのシーンの組み立てを眺めたり、
村の撮影では舗装道路にじゃりを敷きつめるのを手伝ったりしたよ」
「ク、クリスチャンのことは何か覚えてる?(鼻息)」
この質問には残念ながら首をふったものの、
当時ぺネロペ・クルスとつきあっていたトム・クルーズが島に来てたという話、
ニコラス・ケイジを車でひきそうになったという話などを愉快そうにしてくれました。
こわもてと思ってたけど、あれ、なんかすげー話しやすいぞ。
年は30代前半でしょうか、昔やんちゃもしたけれど根は硬派、みたいなタイプ。
やがて、話題は映画をはなれ、ギリシャ経済の話になりました。
「ギリシャの今の状況は、政治的危機じゃなく文化的危機だ、おざなりにしてきたつけだよ」
島にも当然影響はあったといいます。
ロケ地ということを観光客の誘致に利用すればよかったのに、
とどっかの考えなしがいうと、「まあ、ずいぶん昔の映画だしね」と苦笑。
「それに映画に頼らなくても、この島にはギリシャ最古の神殿もある」。
そっか、アクロポリス・・・。
聞いていると、この島や自国の文化への愛情を感じます。
映画を目的にくる人は以前はいたけれど、今はほとんどいない、と。
「原作は読んだことある?」
「持ってきてるんだけど・・・まだ途中で」
「映画と原作はすごく違う。
知ってた?映画の結末、本当は地震の前で終わるはずだったんだ」
最初の話では、村のロケ地はそのまま残しておくという話だったんだそう。
再利用することになっていたと。だけど予算の関係で監督が壊すことに決め、
そのために地震のシーンを組みこむことになったというのです。
この話、私は初耳だったので驚いたのですが、あくまであやうい英語力によるものであり、
島の人、それもひとりからきいた話なので、おとぎ話程度にどうかひとつ。
ただ、イギリス版DVDに入っている監督のコメンタリをあとで聞いたところ、
CH20 1:52あたりで「セットを壊す必要があった」みたいな話はしていました。
ただ、本当かどうかはともかくとして、この話を聞いて、
さっき見たDihaliaの廃墟っぷりに合点が行く気がしました。
地震の爪痕と片付けるには、あの時はそれで納得もしたけれど、
がれきの山が目に入った直後に違和感が走ったのも事実だったので。
細かい事情や破壊の配分はわからないけれど、
他の要素が介在していたんだったらその方がすんなりくるなあ。
そうこうするうちに、マ・ビーチに到着。
20分程度で十分に満足して、待機してくれていたタクシーに戻ろうとすると、
運転手さんは外に出ていて、私に気付き、ちょいちょい、と手招きしました。
「これ、嗅いでみて」
手にしていた草を差し出しました。嗅ぐと、いい匂い。
「シム(スイム?)というハーブだよ」
その後は、海岸線に沿ってスカラに向かいながら、
島のハーブの話、おばあちゃんっ子でいろんな薬草を教えてもらった話、
地震の話、島を離れ本土でやっていたという仕事の話、島に戻った経緯、
ギリシャ国教会を家族で建てたという話、ギリシャ哲学の話・・・
なんだかもう、とりとめもなく友達と話している気分に。
「おふろでエウレカって叫んだ人、だれだったっけ、ええと・・・」
「アルキメデス?」
「そうそう、そのアルキメデスがさ・・・彼って数学者でしょ、
ギリシャでは数学と言葉はもともと1つのもので・・・」
それになんだろう、この人と話していると、すごくギリシャを感じる。
今はタクシードライバーだけど、次どうするかを考え中といいます。
そういう時期なんだね?と言うと急にきまり悪い表情になって
「家族がいるから・・・」とこの時だけ声が小さくなりました。
たかが、タクシーの中の会話といえばそうなのかもしれない。
だけど。
全部で2時間くらいだったでしょうか。
スカラのソフィアホテル近くの教会前で停まってもらい、
80ユーロ、プラス10ユーロを差し出しました。
「え、だって夕食代足りなくなるでしょ?」
いいの、だってすごくいい時間だったから。
降りようとした私に、運転手さんはいいました。
「今日は話すぎたみたいだ。ごめん。いつもはこんなじゃないんだけど・・・」
というわけで自発的に130ユーロやぶっちゃったわけですが。
いいです。
乗る前の予感。
「この人、今日のごほうびだ」
あたってましたから。
・・・・・・・・・・なんのごほうび?
マンドラスビーチ雑談、これで終わりです。