ジャックマイヨールにはなれそうもないけど。

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問わず語り

静けさの話。

へんな話だけど、ずいぶん昔に見た自分の夢に助けられているところがある。

夢の中で私は高速水車になっていた。

高速水車、つまりどういうことかというと、そもそもの設定が奇妙なんだけど、でも夢なんて奇妙で唐突がデフォなんだからそこについてわざわざ言及する必要はないかしら、ともかく、絵で示すとこんな感じ。絵がへたなことは言及しておく。

時代劇なんかで水車に張り付けされる拷問があるでしょう。あの水車のないバージョン。

海ではなくどこか深い森の底が見えない池というか泉のようなところ。抗えないなんらかの強制的な力によってくるくると旋回しながら、何度も何度も空中から水中に飛び込み、数秒後に水中から空中に浮かび上がる、を繰り返している。

私は水恐怖症のけがあるので、束の間の空中から再び水面めがけて顔から向かっていく瞬間が途方もなく恐ろしく、水中にいる間の呼吸ができない数秒が永遠のように長く、完全にパニックにおちいっている。空中に上がっているあいだは息ができるのだけど、パニックも手伝って呼吸がだんだん続かなくなっている。

やがてパニックがマックスになり、次だ、次に水に頭からつっこむ瞬間に私はきっと死ぬだろう、という最後の瞬間、実際にはそんな考える余裕もないほどの高速ぐるぐるパニック旋回だったはずなのだけど、水面に着地する直前1秒だか0.0001秒だかのところで突如悟りが訪れた。悟りというか腹括りというか、力を入れるのではなく抜いてすべてを受容する心の状態になっていた。

その直後に顔から着水したのだけど、水の中は静かな空間に変わっていた。息を止めていなければいけないのは変わらないのだけど、恐怖心が消え、水の中がこんなにも静かだったことに気づいた。水の中も心の中も絶対的に静かだった。水はもはや恐怖の対象ではなく、友人だった。落ち着いて、しばしみるみると心地よく触れ合い、再び去る時間が来るのを待てばいいだけだった。

ばからしい、辻褄の合わない夢の一つ。だけど、それ以来何度も、思い出すともなく思い出している。

なぜできたのかはわからないけど、その状態に一瞬で至った。一瞬で静けさは獲得できる。いつもできるかはわからないけれど、できる力が自分にはある、その静けさは自分のなかに存在している、と身を持って知ることができた夢だった。

あいかわらずプチパニくったりもやついたりすることもある現実だけれど、だし、現実の私にとって実際の水はまだ少し怖いものだから一生ジャックマイヨールにはなれそうもないけど、あの夢の中のありかたを思い出すだけで、す、と静かな状態が戻ってくるというか、多分きっといろいろと大丈夫なんだろう、と根拠なく思ったりしている。

とほ