【怪談】暗闇に光る電話

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国内旅

先月後半。
京都でいくつか行きたい場所がたまっていて、スケジュール帳を眺めながら、6月はあれがあるし、7月もあれが終わるまでは無理だ、8月か、暑いだろうなあ、9月は先過ぎるなあ、と考えていたら、今いっちゃえよ今、と空耳が聞こえたので、その手で高速バスを予約した。

夜行バスはさすがに年が年だしきつくなっているし、少なくとも日本ではやめようという気はあるのだけど。日中に移動すると移動時間が短い手段を使ったとしても心理的に一日がまるまるつぶれてしまった気になるたちで、それよりは夜寝る時間を移動に使って早朝到着後にどこかでシャワーあびて仮眠してから動ける方がいい。

それはそれとして、そういうわけで、当日は旅の一式を持ってコワーキングスペースで22時まで過ごしてから、そのまま横浜の高速バス発着所へ向かい、23時過ぎ発の夜行バスに乗り込んだ。

預け荷物をあずけ、バスの入口で名前をつげ、自分の席に座るまでのあいだ、だれかがどこかで電話で話をしているなと気づいてはいた。ひといきつくと、話をしているのではなく、相手が電話にでないのか、ずっと、もしもし? もしもーし、もしもーし、と呼びかけ続けているだけなのだとわかった。バスはまだ停車し、扉があいているから、外のだれかだろうか。

でも、バスの扉が閉まってもまだ聞こえる。音の小ささからすると、前方のだれかのようだ。運転者さんだかバス会社の人が説明を初めてもまだ話している。説明が終わり、消灯しても聞こえてきた。さすがに、っだれだよ、と心ないことを思った。あきらめない人だな。

その時、突然天啓がおりてきた。

まさかと思うけど。

バス用に持ち込んだ小さいバッグを恐る恐るひらくと、果たして携帯が光っていた。

もしもし?もしもし?もしもーーし。もしもーーーー

母の声。

加えて妹からのLINE。

電話はいろんな意味で出る勇気がないので、妹のLINEを開いた。

妹からもLINE経由で山ほど不在着信が入っていた。




というわけで、家族の皆様も、バスの中のおそらく聞こえていたであろう周囲の皆々様も、たいへんおさわがせしました(大汗)。

あとで母から聞いた話によると、母がお風呂に入っているあいだにわたしから母の携帯に電話が入ったらしい。

近くにいた妹が、あまりに長いあいだ鳴っているから取っていいかと、あがってきたばかりの母に聞き、電話を取った。すると、ずっとごそごそという物音しかしない。さあそこからは、母などはパンツはくのもそこそこに、ふたりで必死になって電話口に叫び続けていたという。切れたらおしまいという危機感のもと、わたしの名前を呼び続け、あいだに「警察よぼうかああ!」などのセリフもはさみ。そのうちアナウンスが聞こえてきて、どうもこれバスの中だ、と気づいたところで電話が切れ(当然切ったのはわたし)、切れた…と茫然としていたところに、場違いにのどかな「どした?」が妹のLINEに浮かび上がった、というしだい。

それにしても、警察よぼうかああ!て。本当にどろぼうさんやひとさらいさんだったら、よびかけても意味なさないと思うんですけど。

いや。つっこんでいる場合ではない。

まさかと思うけど、周囲のみなさまにはとっくに聞こえていて、「おまえや!はよ取れ!」とやきもきしていたのだったら。申しわけない。せめて警察よぼうかああのくだりは聴こえてませんでしたようにと願うけど、なんかもう本当、おさわがせしてすみませんでしたすみませんでした。

とほ

追記:
京都には5日くらい滞在していたのだけど、その後母が嬉々として後日譚を話そうと何度も電話してくるわ、妹には、弾丸ちゃうやん、といさめられるわ、ちいともおちつきませんでした(涙。