ノート小話2:旅の記録。

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旅語り

 

移動時間の書きもの。

旅をしているとき、移動時間が長いのは苦じゃない。むしろ好きだ。とりわけ寝台列車が好きだ。映画を見たり本が読めることに加えて、書き物がしやすいから。買ったものの記録や日記もだし、移動中は何かと降りてきやすい(何が?)。ネット状況が安定しないことも手伝って他にできることが限られているために、書き物がはかどる気がする。

でもそれが可能になったのも電子メモという選択肢が増えたから。手書きの時代は厳しかった。振動で字がぶれぶれになるので。とくにバスはアウト。そもそもバスは酔うのでメモする行為自体アウト。視点を一点に集中する行為はだいたいアウト。なので読書もアウト。映画はなぜかセーフだけど時に危うい。三半規管の強い人が羨ましい。

ただスマホのおかげで、バスでも短時間であれば、集中していないふりで自分をだましながら、頭に浮かんだことをさっとメモするくらいはできるようになった。とはいえ、寝台列車はほとんど酔うこともなく、自分のスペースが確保でき、好きな姿勢で書けるという点では軍配。

紙のメモと電子メモ

旅先で、紙のノートとペンはまだ持ち歩いてはいる。治安が不安などでスマホが取り出しにくい状況も少なくないし、現地の人に文字や地図や絵をかいてもらうとか、逆にこちらがかいてみせるとか、交流にも使える。

でもやはり、ノートを開く機会は確実に減っている。

今では旅の日記やお金の記録は、電子メモ上で日付をタイトルにしてひとまとめにして書きこむようになった。ブログのネタ帳がわりにもなっているので、帰国後コピペ使用することも多い。手書きでは、再度打ち込まないといけないし、二度手間になる。検索もできないし。

つまらない人間になってしまったものだ。

と、電子メモの恩恵を嬉々として語る私に、腕組み足組みしながら渋い顔で言い放つ人格も私の中にはいる。紙のノートとペンから離れて行こうとする私をせめているのだ。

旅先での紙とペンを取り出す行為。

『星の旅人たち』(原題The Way)というサンティアゴ巡礼路を扱った映画がある。

寡黙な眼科医が、長く疎遠となっていた息子が巡礼中に事故で亡くなったとの訃報を受け、息子の代わりにサンティアゴ巡礼路を歩く中で、息子との関係をみつめ、仲間と出会い‥‥‥という物語。俳優エミリオ・エステベスが、実父マーティン・シーンを主役において監督を務めた。

私が2年前にカミーノを歩いたきっかけがこの映画だったのだけど、実際に行ってみると、他にもこの映画がきっかけとなったという人に出会った。アメリカ人が多い印象だった。きっかけでなくても、どの国の人もこの映画はよく知っていて、話題にのぼることも少なくなかった。

まあ星の旅人バイアスがかかった個人の統計(サンプルサイズ10数名)なんで話半分にしといてください。巡礼に来て初めて知った、帰ったら観てみます、という人ももちろんいたし、おすすめされてもさらっと流す人もいてそれはそれでクールだった。

ともかく。

その映画の中で、トム(マーティン・シーン)のカミーノ仲間のひとりとなったアイルランド人作家のジャックが、何度か紙とペンを取り出すシーンがでてくる。アイデアやトムの話を書き留めようとして。

紙とペンを取り出すという行為は、旅先でもよくみかけるありふれた風景だ。だった。これからはそういう姿を旅先で見かけることも少なくなっていくのかもしれない。

インタビューするなら今ではボイスレコーダーか。それかシンプルに動画か。シンプルが動画だよ?すごい時代になったよねえ。おばちゃんびっくりですよ、もう。そういえば2年前のカミーノでも「ブログ書いてる」と言うと「ブの方?ヴの方?」ときかれたっけ。

毎年なにかしらで海外に出てきたけれど、毎年人々の使うツールの変化に気づく。各国の旅人がさまざまなガジェットを普通に使いこなしている。本格的な電子機器をたくさん持ち歩いている人もいるだろうけど、軽量をとるならすべてスマホで間に合わせることも可能。

この先は、旅の期間が長くなっても、ノートが増えて荷物になる、というようなことはなくなるのだろう。データが増えても物理的な重さは変わらない。端末をなくしてもクラウドに保存されているから、ノートを盗まれて金目のものを盗まれるよりショックを受ける、というような局面も減る。ような気がする。

私も、紙でできたノートとインクの入ったペンを取り出し、白紙のページを開き、おもむろに書き始める、という簡単な行為が、スマホを、少し前は親指の指紋一つで、今では顔を見せただけで開き、メモアプリを開き、タイプし始めるまでの手間に負けてしまうようになった。

渋い顔の人格は渋い顔をしながらどこか寂しげだ。

とほ

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