【パンチャタントラとイソップ】どっちが先か問題

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物語/本語り

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パンチャタントラとは

みなさんはパンチャタントラを知っていますか?

実は上に載せたのは、ヒンディ語学校の卒業文集用に書いたエッセイでした。ヒンディ語力に難ありなので、日本語原稿をさらに簡素化したものにはなりましたが。

あらためてここで、パンチャタントラ(Panchatantra、पंचतंत्र)について簡単に説明すると、西暦200年ごろのインドで、ヴィシュヌ・シャルマーという学者によって編纂された寓話集

ヴィシュヌ・シャルマーが、ある王から三人の王子の教育を頼まれたが、王子たちがやんちゃすぎてただ教育するだけではだめだということで、動物を主体とする短い説話を通して王になるにふさわしい処世術を授けていったというもの。

パンチャとはサンスクリット語で5を意味し、全部で5つの巻からなる説話集ということで「パンチャ」「タントラ」。短いお話のあとに教訓がついているのも特徴です。

で、私がこのパンチャタントラを知ったのは授業で、厳密にいえばそれまでもうっすら存在は知っていたけれど、具体的な物語の内容や背景を知ったのは、リーディング、ライティング、スピーキングの課題として触れてから。

おとぎばなしや子ども向けの平易なお話って、語学学校の初級クラスで使う教材としても最適ですもんね。インドの歴史的背景を学ぶうえでも、パンチャタントラはよい教材だと思います。

一方で。次々にさまざまな物語を知るにつれ、え、これって、イソップのぱくりじゃん、という気持ちも大きくなっていきました。

イソップとは

みなさんはイソップは知ってますよね? 

パンチャタントラは「知ってますか?」だったのに対し、イソップは「知ってますよね?」となるあたり、私の先入観が反映されちゃってますが。もちろんどちらも熟知しておる、という方もいらっしゃるとは思います。

いちおうイソップ寓話(Aesop’s Fables)についても簡単に説明しておくと、紀元前6世紀頃、古代ギリシャで奴隷の身であったイソップという人物が口承で語ったとされる寓話集。成立は紀元前6世紀頃だけど、文章化されたのは紀元前4世紀になってかららしい。日本ではほとんどが子供向けというのもあってかイソップ物語とかイソップ童話と呼ばれることが多い気がしていますが、本来は「寓話」なんですね。これも擬人化された動物が登場する話が多いのと最後に教訓が特徴。

で。

全部のお話じゃないんです。でも似ている話はなんとなくというレベルではなく酷似している。それぞれが独立して作られたというのは考え難い。どっちかがどっちかの影響を受けたのは間違いない。

私としてはほら、先に知っていたのがイソップですし、お話の最後に教訓をつけるスタイルはイソップの持ち味と思って育ってきちゃってるし、デビュー成立時期を見る限りシンプルにイソップの方が先なわけですから、どうみてもパンチャタントラがイソップをぱくっ…あ、いや、少なくとも影響の流れはイソップ→パンチャタントラだろうと思ってたんですが。

イソップ推し人類VSパンチャタントラ推しAI ファイッ

近頃急速に身近になりつつあるChat GPT君に軽い気持ちでお伺いをたてたところ、Chat GPT、なんとパンチャタントラ業火担ということが判明。「世界中のさまざまなアーティストに影響を与えたのはうちらのパンチャ(訳:世界中に類似する物語があるがそれらすべてのルーツはパンチャタントラである。イソップ物語もそのひとつである)」とあの手この手で説得してきました。

となると、私としても、自分だってパンチャタントラが目の前に現れるまでは推しのこと忘れてたくせに、なんなら大人になってからは教訓うざとかなってたくせに、急に古参ムーブかますファンがごとくイソップ擁護のあの手(プロンプト)この手(プロンプト)を繰り出すようになり。

かくして 『パンチャタントラ→イソップ説』推しのChat GPT vs『イソップ→パンチャタントラ説』推し人類代表トホとの間で戦いの火蓋が切っておとされましたと。

まあでもね、相手はAIですから。箇条書きですらすらすらりと差し出してくる”根拠”はどれも説得力があるわけです。実際、ペルシャ語の『カリーラとディムナ』など多くの世界の物語に影響を与えたのは間違いないよう。

ただまちがったこともまだまだしれっと差し出して相手でもあるわけで、実際「なんでそれがどちらが先か論争の根拠?」というものも含まれていたり、「アレクサンダー大王の遠征を根拠にするのはむしろ方向逆じゃね?」とか「ヴィシュヌ・シャルマーはグリムみたいな編纂者だよね?ということは元ネタはどこから持ってきたの?」とか「そういえばジャータカなんてものもあったよね?その辺の時系列どうなの?」とかとか、しばらくすると矛盾点に気づいたり新たな疑問がわいてくる。で、そこをつくとChat GPT、「いいところに気が付きましたね!」となんでいつも上から目線やねん的ではあるもののまずは着眼点を必ず褒めてくれ、しかしさらなる根拠を提示してきて推し擁護の姿勢はくつがえらず。ぐぬぬ。

最終的には、わたくし基本弱腰の人類下っ端ですので勝ち目があるわけもなく、じゃあパンチャタントラが勝ちでいいよもう…となりまして。でもまだ完全に納得はしてない(ぼそっ)。実際、現時点では「どちらが先と言える確定的な証拠はない」ようです。

が。さんざん古参ムーブかましといてどの口がではありますが、エッセイの後半に書いた「どっちでもいい」もまた真実ではあったり。世界に類似する物語や神話があることに言いしれないわくわくを抱える性質はまちがいなくあります。だから本当はむしろ大好物な寓話や神話についてあれこれ考えるきっかけをあたえてくれて、ありがとうパンチャタントラ、なのでした。

むりやりまとめたな。

最後にもう一度イソップについて

イソップはその人物自体に謎が多く、この記事を書くにあたり調べてあらためて興味がわいています。彼が語ったとされるものを後世の弟子が文書化したものであり、実在は証明されてないとか、単独の作家ではなく複数の語り部の集合体説とか諸説あるらしい。実は複数の語り部の集合体説といえばシェークスピアも確かそういう説あったよね?なかったっけ?

オリジナルに近い形で読みたくなり、思わずAmazonでこの本買っちゃいました。

大人のためのイソップ寓話: 730編以上収録 韓国語版付録付き

韓国人の著者パク・ジョンホ氏による730編以上も収録されたイソップ寓話集。日本語版は全部ふりがな付きでそのふりがなに難がなくはないけれど、スルーすれば問題なく読める。し、最古のギリシャ語とラテン語のテキストに基づく物語が700編以上も読めるものって他には見つけられなかったのでありがたい。ひとつひとつが短くするする読めるし、イソップ本人が登場する話があったり、大人向けの話があったり、今の目で読むとあらためて面白いです。骨休め的に気が向いたときに読んでいこうと思います。

おまけ:ヒンディ語メモや参考文献など

短い物語/Storyのことを、ヒンディ語ではカハニ(कहानी)といいます。ヒンディー語学習中でディバーナーガリー語で書かれた易しめの題材が欲しい方、もしいましたら、”हिंदी कहानी” (複कहानियाँ)とか”बच्चों की कहानियाँ”とか”पंचतंत्र कहानियाँ”検索するとサイトやYoutubeがたくさんヒットします。実際私も、Youtubeやポッドキャストでいそいそと聞くなどしています。

Library of Congress Aesop Fables (英語のイソップ童話リスト)

「パンチャタントラー世界で最も古い子どものためのお話集」
国際児童児童図書評議会インド支部事務局長マノラマ・ジャファ氏の講演会(日本語)

Moral Ethics of East and the West: A Comparative Study of Panchatantra and Aesop’s Fables
東西の倫理観という観点からのパンチャタントラとイソップの比較研究(英語の論文)

めっちゃ寓話的な本の感想⬇️

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