エルザはふたつの言語を話す。ひとつの言語で思いをのべた直後に、もうひとつの言語で同じ思いをくりかえす。興奮して早口になろうと、沈んでとぎれがちであろうと、ひとつの言語のあとに必ずもうひとつの言語が添えられる。同じ喜怒哀楽で。わたしは片方のネイティブではあるが、もう片方が何語なのか知らない。たずねてみてもエルザはほほえむばかりで答えない。知らないので正しいかどうかもわからない。この世に存在する言語かさえも定かでないが、ただときどき似た発音、似た言い回しがでてくるので、言語としての機能は確立しているようだ。片方のネイティブでしかないわたしに、くりかえす必要はあるのか。わかる方だけでいいよ、といっても、必要なことだから、というばかりであらためようとしない。
そういうわけで、わたしたちの会話は通常の二倍時間がかかる。
fin.
昔書いた超短編。昨日のエルザから思い出し、ごそごそと引っぱり出してきました。たまたま名前が同じなだけでまったく無関係。