どうも。少し前、Twitterの「好きな映画をつまらなさそうに紹介する」というタグで、この『ライフ・オブ・パイ/虎と漂流した227日』を「作り話」のひとことで紹介した人がいて、大笑いしたトホです。いやほんと、そのとおりとしか。
さて。本題。
『ライフ・オブ・パイ/虎以下略』の舞台、ポンディチェリ。
その旧フランス人居住区(French Quarter)。
神を信じることになる話があると聞いて、小説の材料になるかと聞きにきた作家にパイが、なにから話そうかといって、自分の名の由来やポンデイチェリの町の構成を話すところから物語は始まります。
「ポンデイチェリはインドのリヴィエラだ。海岸に延びる街路はまるで南仏のようだ。少し入ると運河がある。その向こうがインド人地区。西側はイスラム地区だ。1954年、フランスが街を変換した時・・・」(DVD字幕より)
ポンディチェリ滞在中、この旧フランス人居住区の位置を確認しにインフォメーションセンターに行ったところ、翌日ウオーキングツアーがあるというので参加することにしました。
上記写真Dのあたり。
9時45分の集合時間に行くと参加者は私ひとり。ダラヴィスラムツアーの時のように聞き取りやすい英語&わかりやすい説明のガイドさんではあったのですが、今回は英語ネイティブの参加者に投げてこっそり息抜きするというようなこともできなくて頭がちりちりしたのに加え、はいはいきたきた的なだんだんプライベートな話に切り替えていく戦法(?)をくりだしてきやがりましたので交わすのがめんどくせかった・・・とかいう私の脳内事情はおいておきまして。
映画の中でも説明はされていますが、このツアーで聞いた植民地時代の話などからこの町の歴史や構成を補足しますと、
まず最初(1521年)にポルトガル人がきて、次にオランダ人がきて、その後イギリスとフランスが統治を交互に繰り返し、最終的にフランス植民地となったのだそうです。その時代はインドに変換される1954年まで続きます。
で、運河(Canal)はオランダ人が来た時に作られたと。さすがオランダ人。
わかりますでしょうか、地図の中央から下のあたりに横たわる水色の点線部分。その運河を境にして、下(地図の黄色部分、ベンガル湾側)のフランス人居住区上(緑部分)のインド人居住区に分けられたのだそうです。緑色のインド人居住区は、画面左からイスラム教、キリスト教、ヒンドゥ教とさらに宗教ごとにわけられています。
さてそれで。
実際に歩いて町の大きさも体感した頃にこの話を聞き、イギリスの植民地だった場所が多いインドの中で元フランス領であったこのポンディチェリが映画の舞台に選ばれたことが非常に腑に落ちました。
水を暗示しているパイの名前の逸話は物語にはずせないパートですが、そこにまずフランス語が大きくかかわっていますし、パイの3つの宗教渡り歩きを後押ししたのもヒンドゥ教とイスラム教とキリスト教が存在するこの地のこの区分けならではだったのだなと。
インド自体が複数の宗教が共存する国ですのでその点は他の地域でも可能な設定そうに思えるけど、パイの父親は「宗教は暗闇だ」という考え方の人で、子供の頃に病気を祈った神ではなく西洋医学に救われたことで新しいインドを信じている人。母親も、ものしずかな印象ながら、身分の低い男と結婚して勘当されているインド人女性としては相当にレアな人。
つまりかなり革新的な家庭。北インドとかだったら難しかったのかもなあと。あ、でも、この部分は今書いてて思った感想ですが。
ともかく、そんな家庭で育ったパイが3つの宗教を信じるようになったのは完全に自分の選択でした。その流れを追っていくと(ここから、前半部分のみですが、映画の中のセリフやストーリーに結構触れています)
「最初に人が神を知るのは教えてもらうから」
というわけで最初の宗教は「そこにあった」ヒンドゥ教。
ただし父親が前衛的な人であることもあり、神というものにたいする盲信方向にはいかず、一歩引いた距離を獲得。
次に出会ったのが避暑地でたまたま出会ったキリスト教。
最初はキリストと全能の父の関係に矛盾を感じたもののやがてキリストが大好きになり、教会に通うように。
ヴィシュヌ神(ヒンドゥ教の最高神のひとり)に「キリストに出会わせてくれてありがとう」とお礼を言います。
「ヒンドウ教を通してキリスト教の神を見つけた」
のですから。
しかしそこでパイの宗教探訪は終わりではありませんでした。
西側のアザーンの音が響くイスラム地区。
「神は神秘的な方法で働きかける。今度はアラーの名で」。
こうして3つの宗教を信じるようになったパイ。
地面に頭をつけてアラーへのお祈りをささげ食べる前にはアーメンを唱えるパイ。家族はそんなパイを否定するわけでもなくからかうのみ。
3つの宗教を信じるのは無理だ、といわれ、なぜと聞くパイに父親は答えます。
「同時にすべてを信じるのは何も信じないのと同じだからだ」
気まぐれに宗教をころころかえるな、盲信的に信じるのではなく理性で考えろ、と。このあとに虎リチャード・パーカーと対峙するシーンがあり、さらに父親は、動物にも心があって友達になれる、というパイの甘い考えを徹底的にうちくだく方法で、虎は猛獣であること、理性で行動することの大事さを諭します。
このポンデイチェリでの成長期に形成された土台が、物語の中心となる太平洋でのパイの行動と選択、またリチャード・パーカーとの関係性につながっていくのです。
最後に。
映画の中でも出てくるマンダラのようなこの模様。ライスパウダーをつかって描かれています。旧フランス人居住区をはじめ、何度か目にしました。
9:45インフォメーションセンター出発。
所要時間1時間半。250RP(2015年7月)
これ以上うまい命名はないと思う。