その2.決めていたこと。
本を出版しようと決めた時、同時に、しないと決めていたことがある。
それは自費出版。
今回なんとしてもしたかったのは商業出版だった。金額がつけられて人に買われていく紙の本を出版したかった。自分の本が書店の棚に並べられているのを見たかった。出版社から所定のプロセスを経て出版され、印税をいただくまでを経験したかった。
今回、というのは、自費出版は一度したことがあったから。といっても、自費の「自」は実質「親」だったのだが。
高校の時に、童話と詩の本を出版した。親が出したいか、と聞くので、そら出せるのなら出したい、と言って、出す運びとなった。
なぜそういう話になったのかといえば、同じ高校に通っていた2つ下の妹の学年からアメリカの高校との交換留学制度が始まり、妹もめでたく行けることになったから。
ん、どういうこと?
つまり、私だって留学は興味あったし、超絶うらやましかったけれど、学年で決まったことなのでどうしようもない。でも、なぜかそれを母が、おねえちゃんに不公平と思ってくれたようで、それがまたどういう経路でそこに至ったのか、私が書き溜めていた童話や詩を本にする?と聞いてきた(そういえばなぜ書いているのを知られていたんだろう)。けして裕福な家ではなかったのだけど、母はそういうところがあった。
そういうわけで、自費出版といっても正確には親が出してくれた本だし、主体性という点において、十代のお尻青い子が言われるままになんか出しちゃったやーつ、である。賞を取ったというわけでもない、なので、質も推して知るべしだ。
それでも、出版社(印刷会社)の担当者さんに来てもらったり自らも足を運んで、デザインやフォントその他を詰めていき、それなりにしっかりした本が出来上がっていった。さらにありがたいことに現地のプロの画家の方が出世払いでいいからと表紙の絵を提供してくださった。さらに地方のいいところというか他に大きなニュースがなかったのか、県の新聞に載ったりもした。そういうのが重なって、その頃一瞬だけ、文章を書く人として、学校やクラスでもてはやされる感じがあった。ちょうどその頃全国読書感想文コンクールで賞を取り、学校で配布される冊子に載ったのも後押ししたかもしれない。
数少ない短い栄華の話はいいとして、本の発行部数はわずかであったし、あくまで読んでくれる人がいれば渡す用途の本であり、したがって値段がつけられて書店に置かれるようなことはなかった。
そんな自費出版と呼ぶのも面映い経験ではあったけれど、少なくとも一度は経ているために、今回は最初から選択肢にはなかった。ものすごく正直にいえば、自費だとどこか負けた気がする、という気持ちもあったかもしれない。それ以前に旅から帰ってきたばかりでお金もなかったし。
そういうわけで、Wikipedia出版社網羅作戦の時点で、自費出版がメインと思われる会社はリストからはずした。大手であっても自費出版部門があるところはやはりはずすか、候補に残すとしても後回しにした。まあその前に大手は、自分が尻込みしたというのもあるのだけど。汗。
ちなみに、電子書籍での出版という選択はなかったのかというと、売り込みを始めた2011~2012年時点で、電子書籍はもう登場はしていたけれど、まだまだ心理的抵抗が大きかったし、自分にとっては現実的でなかった。
結果的には現在、昔より普通の人が本を出す機会は増えているように思われるし、電子書籍の出版も当時に比べて驚くほど一般的になっている。私も今なら、その選択肢を考えることはあるかもしれない。でもあくまで今だからであって、一度は紙の本を出す、それも商業出版として、というのが当時の一つの達成目標であった。
ただ、出版業界が先細りなのは素人でも感じていたし、ぐずぐずしていたらチャンスがなくなってしまうかもしれない、というあせりのようなものはあったように記憶している。
そうだ、あともう一つ、やらないと決めていたことがある。
私が出したい本はあくまで文章主体であり、紀行本、エッセイであった。それに伴い、写真主体で、大きなフォントで旅の人生訓を載せる、みたいな形態の本には絶対しないと決めていた。あとは旅のデータがメインの本も自分には向いていないのでパスだった。写真だけはたくさん撮ってきていたし、うっかり人にも褒められるなどしていたので調子こいて、必要に応じて使わせてもらえたらいいなとは思っていたけれど、あくまで写真は添え物であり、出したいのは「読んでもらう」本だった。
その時点で、読者は限られてしまうだろうけれどしょうがない。希望としては、文章が好きな人に、ある程度長い期間帰らない旅を「読んで」もらいたかった。
こうして、したいこととしたくないことの線引きをして、出版社の候補リストの上位から順に、プリントアウトした本文を章ごとにクリップで止めたものと、挨拶レターと、要約と、冒頭に挙げたようなサンプル写真を1セットにしたものを送り始めた。
続きます。
とほ