うんぬん。
あらためてみると不可解な言葉である。なにより響きが奇異だ。
うんぬんは直視に向いていない。適当に流し、うやむやにし、フェイドアウトさせるための言葉だからである。仮に直視を強行しようとすると、うんぬんは「やめてくれ、そんなふうにみつめないでくれ、慣れてないんだ、どうしてもみつめたいならぼくじゃなくて、だ・である君にしてくれ」と顔を隠してしまうかもしれない。
うんぬんを言い換えるなら、「とかなんとか」とか「・・・」とか「以下略」とか「そういうことでね」とか「大人の事情によりこのさきは察してね」とかだろうか。最後のは適当に言いました。英語だと”blah blah blah”とか”or something like that” あたりだろうか。他にもあるだろうけどわたしの頭で思いつくのはこれくらい。でも”or something”だと「など」に近い気もするしちょっとちがうか。などはうんぬんと似ているようでちがう。他の言語バージョンも気になるけど長くなるので置いておいて。
うんぬんには、うんぬんかんぬんバージョンもある。うんぬんムードをもう少し強調したい時に使う。しかし、かんぬんってなんだ。うんぬんは漢字で書くと云々だ。うんぬんのぬんは連声(れんじょう)というものらしい。んのあとに母音がくるとな行になるやつ。「云」の字面からうんぬんはまあ理解できる。しかし、かんぬんってなんだ(二度目)。
確認してみた。意味はないらしい。
でも、うんぬんルールにしたがうならここは「う」母音仲間がくる方が自然な気もする。うんぬんくんぬんとか。うんぬんすんぬんとか。どこからきたんだ「か」は。あ行じゃないか。
とくにルールがないのなら、もう少し自由に使ってみてもいいのかもしれない。「いろいろあるよね、諸事情により云わないけど察してね、以下略」というニュアンスを強めたい度合いにしたがって長くしていけばいい。うんぬんかんぬんそんぬんやんぬんぶんぬんぱんぬん、とか。連声など考えずに、んぬんは単体で考えた方がいいのかもしれない。んぬんさえいてくれればなんでもできる。頼もしいな、んぬんは。
なんだろう、ゲシュタルト崩壊を起こしてきた(自業自得。
うんぬんの奇妙さを強調したいばかりにひらがなで書いてきたが、ここで漢字に戻させていただくとして「云々」、話し言葉ではあまり使わない気がする。少なくともわたしは。どうかな、「・・・云々じゃなくて・・・」と文中で使うことならあるかな。
一方、書き言葉ではちょくちょく使う。実のところ多用するくせがある。長めの記事なり物語なりを書いていて、ちょっとここはうまくまとまらないけどこのままここにいると煮詰まるので先に行きますあとで考えます、と自分に宣言するときの記号のような感覚で「云々」を置く。
しかし、この「云々」はとりもなおさず未来の自分への先送りにほかならない。現在の自分は助かるが、その文章を完成させたいなら、どっちにしろ未来の自分が対処しなければいけないのだ。つまり「云々」は先延ばしと同義語である。
立ち止まっていると煮詰まってばかりだし、他に逃避しかねないので、切り替えて先にすすめる点では便利ではある。その切り替えは必要ではある。でも多用しすぎると結局自分の首をしめることになる。「云々(あとはよろしくね☆)」が出てくるたびに、未来の自分は過去の自分にむかって「うぬぬ、やつめ、またしてもやりおったな」と歯ぎしりをするはめになる。
うんぬんは便利だ。同時に卑怯である。多用はひかえたい。
それにしても奇妙なひびきだ。うんぬん。うんぬんかんぬん。
以前に物語の結びの言葉について書いたけど、うんぬんかんぬんも加えていいんじゃないかという気がしてきた。おしまいをあいまいにしたい物語にいいんじゃないかなと思うんだけど、どうでしょう。
うんぬんかんぬん。
とほ
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