私はウェス・アンダーソンが好き…なのか?『フレンチ・ディスパッチ以下略』の感想。

映画

 

私はウェス・アンダーソンが好きだ。

この時点で、全国で推定8564人のうなづく音と推定8563人の引く音が空耳で聞こえた気がするけれど、続ける。

『フレンチ・ディスパッチ ザ・リバティ、カンザス・イヴニング・サン別冊』

(2021年/アメリカ/英語・フランス語/108分)
監督:ウェス・アンダーソン
出演:ビル・マーレイ、オーウェン・ウィルソン、ジェイソン・シュワルツマン、ベニチオ・デル・トロ、レア・セドゥ、ティルダ・スウィントン、エイドリアン・ブロディ、ボブ・バラバン、トニー・レヴォロリ、フランシス・マクドーマンド、ティモシー・シャラメ、リナ・クードリ、アレックス・ローサー、クリストフ・ヴァルツ、ジェフリー・ライト、リーヴ・シュレイバー、マチュー・アマルリック、ウィレム・デフォー、エドワード・ノートン、シアーシャ・ローナン、スティーブン・パーク、エリザベス・モス・・・・・・+アンジェリカ・ヒューストン(どこに?と思っていたらナレーションだったんですね)

好みのデザイン、好みの色彩の表紙、中を開けば紙質は少しざらついていて、小さい文字がびっしりかかれているような雑誌。大昔の『CREA』のような、今回のこの映画のパンフレットのような。雑誌はめっきり読まなくなったけど、読むならそういう雑誌が好きだ。

まさにそんな雑誌を具現化したような映画だった。

原題はThe French Dispatch of the Liberty, Kansas Evening Sun。観た人には言わずもがなだろうけどあえて愚鈍な説明をすると、アメリカの新聞「カンザス・イヴニング・サン」の別冊「フレンチ・ディスパッチ(オブザリバティ)」ということ(※)。その雑誌の編集部があるのがフランスの架空の町アンニュイ=シュール=ブラゼ。名物編集長の急死によって遺言通りこの雑誌の廃刊が決まり、最終号に載せられた内容がそのままこの映画の内容になっている。説明くさくてごめんなさいね。

で。

1月に劇場で観た映画。
観た順番に。 『スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム』 原題:Spider-Man: No Way Home(20...

とりあえずひとことだけ、始まって1秒目からウェス・アンダーソン、おしまいまで1秒残らずウェス・アンダーソンでした。

過去記事でひとこと書いた通り、映画が始まって1秒目、配置&構図&色彩が目に入った瞬間に変な声を漏らしそうになるくらいウェス・アンダーソンワールド全開であり、おしまいまできっちりウェス・アンダーソンだった。ウェス・アンダーソンの極みだった。

他にも楽しみどころとして、ファミリー&常連さんもまあ出てくる出てくる。出てこない人あと誰いたっけ?と逆から数える方が早いくらい。ご新規さんも最初から常連さんだったかのように溶け込んでいて、こんなに登場人物が溢れているのに、皆、細かい字でびっしり書かれたその雑誌のどこかで光っている。

それに、この監督特有の色彩と配置が、フランスとフランス語と相性が悪いわけがなく、それを思い切りやるなら、雑誌のフランス支部(しかも架空)なんて最高な設定でしかないわけで、フランス好きな私としては、これも好き要素としてはずせなかった。フランス語圏の俳優、フランス語が話せる英語圏俳優が、各「記事」の主役級から一瞬だけの登場も含め、各所に配置されているのもまた楽しかった。

そう、配置。ウェス・アンダーソンの映画の特徴は「配置」。それが今回のテーマが雑誌記事ということもあって、極まれり、となった感がある。そして、実を言えば、ここまで好きだという空気を醸しておきながらなんだけど、この配置極まれりゆえに、私の中の好きと、かすかな「あれれ?」が拮抗し始めてしまった部分は、正直に言うと、ある。

なぜなら、私は、勝手に自分の中で配置系にカテゴライズされている某大御所監督の映画が実は苦手だったりするのだ。配置系と認識しているがゆえに。そういう映画を見ると、絵画や舞台じゃないんだから、なんて、ひっそり心の暴言を吐いたりもしてしまう。だから、最初からウェス・アンダーソンを配置系だと感じていたら、もしかしたら、あるいは。

つまり、もしかしたら、わたしは、この監督に関して、ゆでガエル的なあれになっているのかもしれないな、なんて。少しずつはまっていって(温度上昇していって)コンプリ(沸騰)する頃には洗脳いっちょうあがり状態(死亡)になっていたのではないか、なんて。いい湯状態のときはとっくにすぎてしまったのに、これこれ、この世界が好き、と思い込んでいるのではないか、なんて。

この監督の作品は一応コンプリしているけれど、一番好きだったのは、もう少しゆるやかにやっていた頃、『ダージリン急行』や『ムーンライズキングダム』のあたりかもしれないなあ。あとは、まだまだくっきりはしていないけれどまぎれもなくウェス・アンダーソンの「ま」が存在する初期の『アンソニーのハッピーモーテル』『天才マックスの世界』あたり。

『ザ・ロイヤル・テネンバウムズ』で認識後『ダージリン急行』でしっかり好きになったあとにさかのぼって追い続けた先の本作なので、思い切り楽しめたけれど、極まりすぎた本作がもし初めて観るウェス・アンダーソンだったら、それでも多分自分の嗜好的にけして嫌いではないだろうけど、追うようになっていたかというとどうかなあ、と、奥の奥のほうでささやいている自分の声が聞こえたような気がした。

いや、好きなんですよ、おもしろかったんです。だけど。そういう分裂した感情があり。それゆえに、この監督が、あるいはこの映画が何かだめだった、という人がいるのがわかりもするのだ。

でもだからといって、なぜウェス・アンダーソンやジム・ジャームッシュの名前を出すだけで「うわあ・・・」と反応する人が一定数いるのだろう、とは思うけど。件の監督の映画が公開されるたびに、この映画を好きな人をシネフィル扱いする発言が某SNSで散見されるのはなぜだろう。そもそも本物のシネフィルに失礼だ。シネフィルだからイコールこれらの映画が好き、ではないし、シネフィルにも好き嫌いの自由はある。第一私はシネフィルではないし、ウェス・アンダーソンもジム・ジャームッシュも好きなただの映画好きだ。ていうかなんでジム・ジャームッシュの名前を出したんや。完全にとばっちり。すみません。

ただ、SNSを含めネット上の自分発信の場は、配慮は必要あれど、受け取り方は人それぞれだし、基本的には「好き」も「好きじゃない」も正直に言える場であって欲しいとは思うけど、自分が合わないからといってすぐ「シネフィルの映画」と括るでないぞ、おうおうおう、と心の中でファイティングポーズを取ってしまう自分もいるのであった。青いですね。精進します。

結論として、私は、好きなのか好きでないのか。というと、好きではあったんだけれど、次は、沸点じゃなくって温度をさげても少し快適にぬくぬくできるやつがいい、熱めのお風呂が好きなので、まあ40度くらいでもいいですから、というところだろうか。

といいながら、引き続き、公開されたらケロケロ飛びつくんだろうけど。

 とほ

 

モロッコ(タンジェ)旅の途中で見つけた『犬ケ島』のポスター

過去のロケ地巡り記事。

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