本日配信が開始されたNetflixオリジナル映画『ザ・ホワイトタイガー』を観ました。
監督:ラミン・バーラニ
出演:アダーシュ・ゴーラヴ、ラージクマール・ラーオ、プリヤンカー・チョープラー
製作:インド・アメリカ合作
おもしろかった。という表現を使うのはいささかためらわれる内容だけれど、見応えあった。そして原作に概ね忠実だった。
原作を読んだのは昨年のソロキャンプの時。
アラヴィンド・アディガ著『グローバリズム出づる処の殺人者より』。
私のソロキャンプは積ん読解消という名目と抱き合せなのだけど、積ん読1年ぐらいのわりと熟成度浅めのやつを持っていってキャンプ中に読了、めでたく一冊解消となった。ただ読んだ時はまさか映画化が進行しているとは知らず、帰って少ししてNetflixオリジナル新作映画のタイトル(The White Tiger)をみて、あれ、これこの前読んだ本の原題じゃない?と気づき、本日の公開日を楽しみにしていたのだった。
急成長期のインド、主にバンガロールとデリーを舞台に、カーストを含めがっつりインド特有の背景を織り交ぜながら語られていくので、インドに興味のある人は総じて読みがいあるんじゃないかという気がする。
設定的にはインド版『日の名残り』のような、と言ってみたけど、主人と仕える者という設定が、というだけであり、当然ながら全然違うだろう。下位カーストの者が成り上がっていく過程で、あらかじめあかされた殺人がどのように起きていくのか、告白形式の語り口としても読み応えある。
インドに興味のある人は、と書いているけど、骨太なしっかりした作りの作品なので、インド映画に限らず映画好きの人は楽しめるのではないかと思う。いわゆる物語のトンネルに向かっていく話なので、人によってはきついかもしれないけど。
原作の邦題では原作タイトルにはない「殺人者」という情報があるけれども、殺人者であることは本編始まってすぐに本人の告白により明かされているのでまあ目クジラを立てるほどではないかなと思う。一方、映画の方は、主人公バルラムの告白というスタイルも、自身の成り上がり物語を告白する相手も同じではあるし、なんらの事情で指名手配中であることは明かされているけれど、殺人者であることはふせられているので、そこを知りたくない人は本を調べない方がいいかもなとは思った。
告白相手に向かってバルラムは言う。「白人の時代は終わった。これからは茶色と黄色い人種の時代だ」。茶色から黄色への告白。こんなにも堂々と人種を色で呼ぶ。それが主人公の「今」の性質を物語ってもいる。
主役バルラムを演じたアダーシュ・ゴーラヴは、私は出演作を観たのは今回が初めてだったけど、若手俳優さんなのかな、原作で想像していた雰囲気と大きく異なっていたけれど、貧しい村の大家族出身の田舎青年から成り上がっていく役がうまくはまっていて、この人の姿かたちできれいに上書きされた。
あと、バルラムの主人アショクを演じているのがお気に入りラージクマール・ラーオというのも楽しみにしていた理由の1つだったのだけど、そこも大満足。見事「子羊」な主人だった。この人は本当になにしても嫌味なほどにうまい。好き。今回は声まで1段階低く深くなってた。同じくNetflixオリジナルの『 LUDO ~4つの物語~』ではまったく違う役を演じている。LUDOもすごくおもしろい映画なので、ネトフリ購読中で未観賞の方、よかったらぜひ見比べてみてください。
冒頭でも書いた通り原作に概ね忠実だったのだけど、あえていえば一番大きく違ったのは、バルラムの主人アショク(ラージクマール・ラーオ)の妻ピンキー(プリヤンカー・チョープラー)のキャラかな。これは、有名かつ実績のある俳優をあてる時によくあるように、膨らませたんだろうなと思った。でも説得力はあるし大筋をそらすものでもなく。あとニューヨーク帰りの強い女性という設定なら、アメリカ英語が似合うプリヤンカー姉さんほど適役はないだろうと思った。
個人的には現代インドの発展や主人公の成り上がりに関係する凶器にまつわるエピソードが流されていたのは残念だったし、その他にも幾つかスルーされていた逸話はあったけど、まあ基本的に私は原作がある映画でもおもしろければオリジナルから違ってて全然OKだし、忠実なら忠実でそれもまたあっぱれと思うという映画製作者フレンドリーな観客なので、総じて問題なし。
むしろ、ブッカー賞を受賞しているだけあって一筋縄ではいかないバルラムの心の変容、主人と使用人の関係性、インドの文化背景をまんべんなく散りばめた原作の要素をよくもここまで緊張感を保って忠実に盛り込んだなと思った。
そんなところかな。思うままに書いたのでまとまりがなくてすみません。Netflixの新作しかもインドが舞台の映画の感想、どれだけの需要があるんだというセルフ空耳も聞こえつつ、案の定日をまたいでしまったのでこのへんで。
とほ
追記
ネタバレがどうのといったけど大どんでん返しがある類の話でもないし、最初に明かした犯罪に向かって繋げていく話なのでストーリー的には込み入った紆余曲折があるわけではない、その間に語られる主人公の心の動きと背景をみていく話だとは思う。
この映画はインドとアメリカの合作であり、監督はイラン系アメリカ人、使われている音楽はクイーンなど、正当な、というのもあれだけど、いわゆるボリウッド映画ではないこともあり、「インド映画」と書かなかったのだけど、インドが舞台という点ではまぎれもなく「インド(の)映画」。原作者はインド人だけど海外(アメリカ)在住経験ありの人であり、そういった、ルーツはインドでありながら外から見る目を持った原作者が語るインドを、内側にいる者が内側からこじ開けるように見せるのではなく、外からの視点を極限までフォーカスするように描いているのが興味深いと思った。
私はインドの内側からの視点もだけど、外からの視点にも興味があるようで、昨年から優先的に読んでいるのも、海外に移住したり在住歴が長いインド人作家の本。読むの遅いし寄り道するからなかなか進まないけど。