「聴く読書」ではナレーターとの相性がだいじ。

物語/本

引きこもり平気型フリーランスのわたくしが外に出る理由の主たるものは、近場ならカフェ、遠出するなら映画かごくたまに人とごはん、だったのだけど、今はいずれも再び自粛になった。

正々堂々とこもっていいのは助かる、とはいえ、体がなまるのはいかんともしがたく、いくら平気とはいえこもり続けていたら心も淀むので、体は動かしたい。でも運動といって私ができるものは、なんちゃってストレッチ(トホはそれをヨガと呼ぶ)か歩くくらいしかない。せめて気分転換に散歩はしたい。ただ、この寒い時期、カフェという目的地を自由に使えないとなると、重い腰を挙げて外に出るには別の大きな動機が必要になる。

そういうわけで、最近再びAmazon Audibleを利用している。目的地のない行って帰る道を歩きながら聴いている。といってもサブスクはずいぶん前に解除したままなので、以前に買っておいた未読の本を読んで(聴いて)いるというわけなのだけれど。

目的は英語のリスニング。昨年までフランス語をもうちょいなんとかしたくてフランス語の小説を(ほとんどついていけないながら)聴いていたのだけど、ここ最近、英語力を底上げする必要性を感じ、この2ヶ月はフランス語をひとまず横において、英語に集中することにした。で、ポッドキャストやTEDなど他にも聴いているものはあるけれど、それは主に在宅聞き流し用にして、散歩中は小説を聴くことにした。

今聴いているのは、エイミー・タンの『The Joy Luck Club』。エイミー・タンは過去に『私は生まれる見知らぬ土地で』 (日本語)を読んでいてスト-リーテリングの妙はわかっていたし、TEDのトークを聴いて作者自身にも興味があり、代表作ジョイ・ラック・クラブもいつか読みたいと思っていた。それで、Audibleに英語版があるのを見つけて購入しておいたのだった。Audibleは買う前におためしで数分間聞けるのだけど、ナレーターの女性の声が好みで聞きやすい英語だったことも後押しした。

 

ただ、いざ聴き始めると、長編だと思っていたのが実質短編集だったみたいで、章によって語り手がいれかわる。長い小説をじっくり聞くのが散歩に出るよい動機になると思って聴き始めたので、少し肩透かしをくらった気分だったけれど、逆にちょうどよい長さで次の章に映るので、歩きながらの集中力も途切れず、ちょうどいいかもしれない、と思いなおした。登場人物はアメリカに移住した中国人女性たち、章ごとに語り手が変わるとはいえ、互いに無関係ではなく、どこで切ってもほどよく次への興味をたもてるので、今の所いい感じで聴けている。

それに、購入の大きな決め手となったナレーターがやはりなかなかよいのだ。なんと各章ごとに語り手の人格と口調をきっちり変えてくる。英語が聴き取りやすいというのももちろんだけど、そのなりきりもわかりやすさにつながっており。なりきっているのだけど、しらけるほどじゃない。地の声は落ち着いた声でありながら、快活な人物と内省的な人物を演じわけている。中国人特有のアクセントが強い女性と流暢な女性もいる。聴いていて楽しい。オーディオとしての本を利用する上で、ナレーションとの相性は本当だいじだとあらためて実感した。

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Audibleを利用し始めたのはちょうど1年前の今頃だった。

その頃は、日本語の実用書を主に聴いていた。小説はどうしても書き文字で「読みたい」からというのもあったし、気になる実用書がたまっていたというのも理由だった。『サピエンス全史』『21 Lessons』などのハラリさん系はAudibleでやっつけたし、『LIFE SHIFT(ライフ・シフト) 』なんかもそう。日本人著者の本も5、6冊は読んだんじゃないかな。

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購読中、小説は一冊も聴かなかった。

単純作業だったり歩いたりといった、五感のうちで実質耳しか使えない時にAudibleは威力を発する。ノンフィクションなら淡々と聞き流せるうえになんらかの情報が歩いているうちに自動的に得られる。実用書による「データ収集/蓄積」には、この「自動的に」得られている、というお得感が強い。

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一方小説だと、読み進めながら感情を揺さぶられることこそが醍醐味であり、物語と自分、一対一での対峙こそが求めるものだったりする。没入したい。でもそれは歩いている時はいささか危険だし、手元を動かしている時はむしろ集中の邪魔になる。だから流し聴きするには向かないのではないかと。それに、私と小説の間にナレーターを介在させたくないという本能的な忌避もあった。そしてそれは、Audibleを利用しはじめて正解だったと思うようになる。

実用書を聴き始めて、ナレーターにもいろんな人がいて、妙にドラマチックだったり声をはりあげたりアニメのりだったりする人がいるなということに気づく。これが私には致命的に合わなくて(アニメ好きな方、すみません汗)。あとサ行がうるさいとかつばの音が妙にひびくとかいろいろと(汗2)。Audibleは期間内なら返品交換が可能で、私の交換理由はほとんどがナレーションだった。いくつかはやりすごせるものもあったのだけどね・・・。

そういうわけで、本を「聴く」上で読み手との相性は少なくとも自分にとってはとても大きいようだ、と自覚した。それからは必ずお試しで聴くようにするようになった。どんなに興味があっても、やりすごせないほどなら購読をあきらめた。実用書でもそうなのに、これが小説だと自分の内側とずれたナレーションのトーンが介入すると物語に没入するのは無理な気がした※。

じゃあ英語の小説を聴くのはどうなのか。物語への没入だの、目で「読みたい」だのいっているけれど、そのへんはどうなの。というと、まず、主要目的がリスニングになるためいささか趣きが異なる。そのうえで、ナレーターはお試ししてから選んだし。

私の英語リスニング力はあくまで過去の自分との比較でいうなら、ものによるけれど、たとえばこのThe Joy Luck Clubなら打率8割前後かなあ、だいたいすっと入ってきているけれど、ん?あれ?今どこ?もまだまだあるし、「聴く」というプラスアルフアのよいこらしょは必要、というところ。

他言語を習得していくって、このよいこらしょの負荷がすこーしずつすこーしずつ減っていく過程であるように思う。今の自分のリスニング力は、昔はぜえぜえ言っていたのがわりと軽いジョギングくらいになっているけれどけして平坦な道のウォーキングではない。という感じ。

そういうわけで、英語リスニングの負荷を減らしたいというのが目的であり、言語の壁を超えてストーリーをどこまで理解できるかどうかも関心事項なので、日本の小説とはまた動機が違っている。ちなみに、英語の実用書だと今度は自分の関心が持続せずにいつのまにか思考がさまよい、英語も内容もどっかに行ってしまいがち。外国語か日本語かで、求めるものが逆になるという構図。

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ともかく。

聴きたいものが出てくるというのは体によい。カフェに行きづらい今、遠ざかっていたウォーキングがまた楽しくなった。距離も増えた。できるだけ長時間聴きたいから。一石二鳥。そして私には人が密でない川沿いの道がある。これでどうにか今の時期をやりすごしたい。

とほ

追記。(※)ただ私の好きをどうしようもなく刺激するものに「語り部」という存在があり、矛盾しているのだけど。語り部が出てくる小説や映画がまた大好きでねえ、ってそのへんも話し始めると長くなるのでやめておく。

 

さらに追記。Audibleについて簡単に。
購読料は月1500円。実際は1500円で1コインがもらえるので、それを使えば本の金額にかかわらず一冊読めるシステム。大抵の本はそれ以上の金額、中には3000-4000円するものも結構あるので、一冊読めば元は取れる。それに購読中は気に入らなければ返品できる。ただし読了冊数を増やす目的で闇雲に何冊も返品を繰り返しているとある程度のところでストップがかかるよう。というのを目にしたので基本蚤の心臓の私は返す時にどきどきした笑。私はそれでも1コインにつき一冊、一月でマックス3冊だったかな。一応返品の際に理由を書くようになっており、それが私はほぼナレーションだったということ。実のところお試しでもやはり十分ではないこともあった。気になることってやっぱり気になっちゃう。

あと、最初の1ヶ月は無料。その後1500円払って1、2ヶ月購読を続けたあとに解除しようとしたら、あと3ヶ月750円/月で読めますよと引き留めがあった。まんまと継続したw。実際は一度解除した後に思い直して連絡したら、丁寧に感じよいメール応対で復活させてくれた。読める本の数も多いし、とくに話題作は購読開始になるスピードが早い気がした。全体的に納得できるサービスなので、また読みたい(聴きたい)本がたまったら利用しようと思う。

ちなみにオーディオ本のサービスとしては、audiobookもあり検討したのだけど、月750円で聴き放題と、月額は最初からAudibleの半額、お得なようだけど聴き放題のラインナップが意外に少なく、私は自分が読みたいものがなかったために利用には至っていない。でも一年たったし、依然気になってはいるので、現在使っている人の話も聞いてみたいところ。

私のように読みたい本が明確にある人はAudible、とにかく数をこなしたいならaudiobookなのかな、と思った。両方読んでいる方、いかがですか?