引き続き、故郷下関ネタ。
山口県は、三方が海に開けた土地だけあってそこそこ島の多い県だったりします。国土地理院『我が国の島の数一覧』によると、2023年2月時点のデータで山口県の島の数は396島(ちなみに日本全国では14,125島、一番多い県は長崎県で1,479島)。
その中で下関の島といえば、有名どころは武蔵と小次郎の決戦場、巌流島でしょうか。
でもあれは無人島。
有人島でそれなりに知名度があるのは角島でしょうか。エメラルドグリーンの海の上をまっすぐに渡る角島大橋は、テレビCMやロケ地に使われたり海外メディアでも取り上げられるなどして、人気の絶景スポットとなっています。
ただその大橋のせいといいますか、橋でつながっているせいでいまいち島という感覚は薄い。実際、調べたところでは、平成12年の角島大橋の開通に伴い、離島振興対策実施地域の指定を解除されているそうです。そうか、やはりつながると島とはみなされなくなるんだ。
他には、彦島なんてところもあります。
ただここも一応島ではあるんですが、本土に近すぎるし大きすぎるしそもそも島という感覚がなく、下関のいちエリアという認識で育ってきました。本土とつながりまくっているので、角島の例からいっても島ではないという認識で大丈夫そうです。
じゃあいったいどこなら島なんだ。
ある程度本土から離れていて、海にぽかりと浮かんでいて、渡るには船が必要。そういうザ・離島、それも有人島といえば。
日本海側、響灘に浮かぶ六連島と蓋井島。
それぞれ、むつれじま、ふたおいじま、と読みます。
ただこの2島、わたしにとっては今までは正直、たまの帰省時にふと海を眺めたときにただそこにある空気のような存在で。見えているようで見えていない、見慣れた風景に溶けた島々。ごくたまに高台から「あっちが六連島でそっちが蓋井島だね~」なんて確認作業をするくらい。
それが今回突如目が開けたといいますか、あれ、あんなところに魅惑的な島があるのになぜ行ったことないんだろう、と旅魂がつぶやきまして。
それで両方の島を調べて、心惹かれた蓋井島にまずは行ってみることにしました(※)。
吉見港と蓋井島間の船便は1日3便(冬季は土曜を除き2便)。所要時間は約40分。平日だったので朝9時40分の便で行くことに。
Googleマップを見ながら、JR山陰本線吉見駅から徒歩5~6分の蓋井島行き船着き場に向かいます。
途中「てんぷら」のいいにおいが漂ってきて、帰りに絶対買おうと拳を握りしめたところで、船着き場が見えてきました。
フェリーは新しくて、予想していたより全然きれい。
切符は出発時刻の20分前から売り出されるということで少し待って、フェリー前の切符売り場で購入しました。片道640円。往復1220円。
船内もきれい。ちなみにおトイレもついてはいるのですが走行中は紙を流せないということで、乗る前に待合所の裏手にあるトイレですませました。
乗船時間は約40分。今日は風が強いなんて母が脅すので、酔いやすい私は酔い止め薬を投入。
関連記事:酔いやすい。
実際は、揺れもなく、さくっと40分がすぎ、
蓋井島の港に到着。
さてどっちに行こう。
人口約90人の小さな島。港を囲むようにして両側に山が見えます。左手の高台に灯台。砲台跡は地図によると右手。
この島は戦時中に下関の要塞として使われていたそうで、砲台跡があることは事前に調べていました。
以前行った横須賀の猿島も要塞に使われていた島で、あそこは無人島でしたが、かつて要塞であった島の独特な雰囲気が記憶に残っていました。じゃあまあ暫定的に第一砲台跡を目的地としてぶらぶら散策してみようか。
というざっくりした予定で、歩き始めました。
島で唯一らしい商店の入った漁村センター。この前を右手に曲がります。すぐ先に神社があるようなので、まずはそちらをお参りすることに。
海岸線沿いの道は舗装されていてきれい。
鳥居が見えてきました。
階段の途中で突如とびだしてきたバッタ系の昆虫。目の前でじっとしているのでしばらく被写体になっていただいたあと、頃合いをみはからったかのように、もういいっすか、という感じで去っていかれました。
こちらの神社は神功皇后、応神天皇が祀られている八幡宮とのことでした。←あとで調べた
お参りしたあとは、階段ではなく坂道をくだっていきます。それにしてもいい天気。それに静か。
坂道を降りたあとは、砲台跡に行く前に、もうひとつ蓋井島に来る前に知って気になっていたアレに会いに行くことにしました。
島で唯一の小学校兼中学校の前を通り過ぎ、
「やまどりの散歩道」、「金比羅山・灯台」と読める標識を通り過ぎ、ほどなくして、
いたーーー!!!
エミューちゃんたち!!
遠くにいたのに、わたしに気づくとわらわらと近づいてきました。全部で4頭。いやーんかわいいーー。
がしかし、とくにおもしろいことは披露してあげられなかったため、しばらくすると興味を失ったように去っていきました。
こうして唯一もうひとつの目的らしい目的であったエミューちゃんたちとの会合があっというまに終わってしまったので、もう少し先まで歩いてみることに。
標識が「金比羅山・灯台」となっている時点で、ん?と思わなくもなかったのですが、「やまどりの散歩道」も気になるし、わたしの感覚ではこの場所は島の右側ということになっていたので、うまくいけば暫定目的地の砲台跡につながる道に出るといいな、と思い。ちがっていれば頃合いをみて引き返せばいいし、と。
鳶が舞っていました。鳶、好きなんですよね。食べ物をかっさらわれない距離にいる限りはですが。遠い空をゆっくり旋回する鳶は実にいい。
気づけば、道はどんどん緑深くなっていきました。
進めば進むほど、手つかずの自然そのままの森という雰囲気に。さっき出会った系のバッタも幾度となく見かける。それ以外の生き物はとくに見かけはしないのだけど、音や雰囲気で近くで息づいているような。自然のまま、かといって荒れ放題で放置された感じもせず、不思議な感覚で歩いていきます。
「やまどりの散歩道」にも「金比羅山・灯台」にも到達することなく、いつのまにか下り道になっていました。
地図を確認して、というよりはこの時点でなんとなくそうではないかと予感しながら地図を見ると、そこには「山ノ神の森」の文字。
山を抜け海に出たところに看板がありました。
国指定重要有形民族文化財
蓋井島「山ノ神」の森ここ蓋井島には、「山ノ森の神」を祀る四つの森が存在します(中略)。
古来、この「山」と呼ばれる森は神聖な場所として、立ち入ることも枯枝を拾うことも、まして枝を切ることも堅く禁じられてきました。この「山」を中心に、六年に一度、島をあげて神事が執り行われ、その際にのみ山に入ることが許されています。
ここまで読んで、さああと青ざめました。
私、立ち入っちゃった…。
この「山ノ神」の森は、古い信仰の形態を具体的に伝えており、人工の「やま」以前の自然の「やま」の姿を如実に示す重要なものとして、国により重要有形民族文化財に指定されています。
山ノ神神事のことは、いちおう知って来てはいました。さっきそこがその森だとわかってからは、失礼のないようにという心持ちで歩いてもいました。が、ああこの島ではそういう神事があるんだな程度の表面的な知識であり、山に立ち入ってはいけないとは知らず。
えええ、言ってよ~、標識の流れで歩いていたらぐるっとまわって出てきちゃったんだよお。
と脳内で反論しようが、立ち入っちゃったことにかわりなく。
こういうとき小心者がいかんなく発揮されるノミの心臓の私、どうにか確認せねばと、さっきの海岸沿いの道まで戻りました。
反対方向から歩いてきた住民らしき女性に軽く会釈したのを機に「暑いですねえ」と天気の話をふっていただいたところでつとめてさりげなく、「山ノ神の森を歩いて抜けて看板を見たら立ち入り禁止と書いてあって…」と切り出しました。
女性は、話を聞くと笑って「なんちゃあないですよ」と言いました。そういうことにはなっているけれど、ただ散歩して降りてくるぶんには問題ないですよと。
よかった~~~。でも住民の方に言っていただけて少し安心はしたものの、どこかまだもうしわけなさが残る私。
その人は、今年が六年に一度行われる山ノ神神事の年であり、11月に執り行われるのだと教えてくれました。
自然の森を「やま」と呼び、穀物の神である「山ノ神」を祭っている蓋井島。山ノ神神事は、六年に一度辰年と戌年に行われる、島内の原生林に点在する「一の山」から「四の山」までの四つの山の森から「山ノ神」を家へ迎えて盛大にもてなし、再び各山に送り届けるという神事。280年以上の伝統があるといいます。
「でも、最近は人も少なくなったし、今年は大きなことはせず、山に入って清掃するにとどめましょうという話になっているんですよ」。
「それはさびしいですね…」。立ち入ったうえに島の人間じゃないおまえがいうなではあるんですが、つい口をついて出ていました。
女性に挨拶をして別れたあと、さっき森から出てきたときに見かけて気になっていた「INKYO GARDEN」に戻ります。←立ち直り早い
これはだれが作ったんだろうか。INKYO GARDENというからにはご隠居さん? 素敵すぎるんですけど。
だれでも休んでいい場所のようです。それでは遠慮なく。
キャンプなんかもできそう。こんなきれいな海の見えるところでキャンプ、いいなあ。
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INKYO HOUSE。
中はこんな感じ。
お気づきでしょうか。
この頃にはわたくし、すっかり砲台跡のことを忘れておりました。
いえ、うっすら覚えてはいたんですが、いろいろ混みですでに濃い半日を過ごしたような気持ちになっており。
最初は15時台のフェリーで帰るつもりでいましたが、3時間足らずの滞在で今回はもうこれでいいという気持ちになり、12時台の便で帰ることにしました。
島唯一の商店でアイスクリームを買って、もう一度ダメ押しで森への立ち入りについて尋ねるなどもして、出発の合図の鳴ったフェリーへ。
こうして、ほんの一部しか知らないまま、なのに謎の濃さを味わいながら、わたしの蓋井島訪問は終わったのでした。縁があるならまた来るはずと思いながら。
動画にもしてみました。見ていただけると泣いて喜びます。
おまけ。
吉見港についてすぐに向かったのは「てんぷら」の店、奥野寿久商店。家族がよく買ってくる「たこ入りはっちゃん」とごぼうのてんぷらを購入。
吉見駅を前にして奥野寿久商店の右手にある橋本商店にも行ってみることに。
めちゃめちゃめちゃめちゃおいしそうなラインナップ!
大好きなハスや枝豆のてんぷらを購入。卵のてんぷらもおいしかったなあ。こっちの店のてんぷらは、昔、家族ドライブのときによく途中で買って小串の海なんかでみんなでかぶりついていたてんぷらに近い気がして、次帰省したときには全種類網羅したいと思った。
ちなみにねんのため、「てんぷら」とは、このあたりでは、素材に衣をつけて揚げたあれではなく、練り物を揚げたものをいいます。関東でいういわゆる「さつま揚げ」。
じゃあ、小麦粉の衣をつけて揚げたあれはなんというの?
……あれもてんぷらですね。普通に。
以上、最後は余談でした。
(※) 今回の帰省中、六連島にも行く気まんまんだったんですけど時間がなくなり、次回に持ち越し。というわけで実はもうインドに戻っております。