インドエアプルーフ。

インド関連雑記

 

ある程度の期間の海外旅行で感じることだけど、入国直後は、その国の空気に対してウオータープルーフならぬエアプルーフを感じる。肌がその土地の空気をはじく感覚。

それが日がたつにつれ徐々に、塗った覚えはないものの心理的な壁や緊張から知らず全身を包んでいたエアプルーフ膜が取れてくる。2週間もいれば、その土地の空気がぐいぐい浸透してきて、文字通り肌になじむようになる。1ヵ月ほどいると肌呼吸が極めてスムーズになる。その頃には、目に映る景色もすっかり見慣れたものになる。

初めてのインドが11年前。その数年後の2回目のインド旅行では、初日にいきなりニューデリー⇒アーグラーワープ事件があったからいうのもあるし、まだ2回目、しかも1回目から時を隔てて、ということもあって、旅開始当初は体がこわばっており、肌が土地の空気をはじき返していた気がする。インドの空気に自分の体がなじんだと実感したのは1ヵ月後の出国直前だった。

ただ、その実感は、あまりにもアハ体験というか、とても強力で、普段意識しない見えない大気が周りにちゃんと存在していて自分がそれを吸って吐いて生きていることに突如気づいたかのように、滞在1ヶ月以上をすぎたポンディシェリで、今私の体はインドに親和している!という気づきと感触をかみしめたのだった。

と同時に、その状態との比較により、デリーから入国してしばらくはどれだけ体がインドに反発していたのか、ということにも気づいた。

初回の「インド好きかも」が2回目につながったのだとはいえ、初回は1ヵ月半、それも北部を限定的にだったし、それから数年経ってという状況では、また一から気持ちを立ち上げないといけないレベルだったろうのに、なんとなく自分はインドともう近いような幻想を抱えていたのだから、今から振り返るとちゃんちゃらおかしい。いや、あなた、まだ、心の額に汗かいてましたから、肩いかりまくってましたから、鼻歌うたって口笛吹いてるつもりでもね、と。

じゃあこの前の、つまりコロナ禍が始まる直前、2019年の5回目の旅ではどうだったのかというと。インド滞在期間は旅を終えた今でようやく半年に届かんとするところ、入国時点では4ヵ月ちょっと。人と比較しても無意味だからあくまで自社比でいくけれど、正直まだまだ、油断すると即座に災いがにこにこ両手広げてやってくるだろうから気を引き締めなきゃという感覚は同じだった。むしろ2回目の鼻歌イカリ肩の時より肝に銘じていたかもしれない。慣れた(と思い込んでいる)時にやられるというのは重々学んだので、それなりの緊張は自ら進んで装備していた。つまり、塗った覚えはないと書いたけど、なんだかんだいって自らエアプルーフクリームを塗っていたのかもしれない。

面白いのは、インドに限らずだけど、空港から出る時など、さあここからは油断してはならない領域だ、となった時に、普段はソフトな声音の私でも(自分で言うな)声が大きく太くなるのと、顎が引き気味になること。顎があがっている状態の時はだいたい、自分今ぽけらっとしてます、という証であり、口もあきがち。それをぐっと引くことで気が引き締まる。そうすると背筋も伸びる。腹にも力が入って、それが落ち着きにつながる。肩もやはり多少は張るのだけど、がちがちのいかり肩とはちがう。肩上がりがちがちマックスと顎上がりぽけらっちょとのちょうど中間の緊張で、繰り出していく感じだ。初日は。

ただ、同時に、よい意味での慣れもやはりでてきていて、視界が広がるというかまわりを見渡す余裕もある。まあこれはインドだけでなくそれなりにいろいろな国を旅してきたゆえもあるとは思うけれど、で、少し緊張をといてもいい状況になった時に、つまりオートリキシャやタクシーの車窓から外を眺めるみたいな状況で、ああもう親和性はすでに育っているな、随分自分のものになっているな、と如実に感じる。

うーん、ちょっとうまくいえてないかな、流れてくる匂い、音楽、風景、何もかもが新鮮といった感じではなく、感覚を呼び戻す感じ。新鮮さ強烈さによる違和感のあいだをぬって、ゆるやかに戻ってくる感覚がある。同時になぜ、この国のこれが自分の一部になりつつあるような人生になってしまったのだろうな、と少しおかしい気持ちもある。まだまだそういうのは全然おこがましいのだけど、でも確かにあるそれらを味わいながら、外の景色を眺めていた。なまあたたかい空気を肌に感じながら。それが5回目。体が、少なくとも2回目に比べれば、はるかにリラックスしていた。

そんなふうに初日から楽しい気持ちで、そうして、幸いにも最後までスムーズにいく旅だった。あまりにもスムーズでちょっと味気ないと思ってしまったほどに。ってこれはよくないんだな、次行く時も引き続き引き締めていかなきゃ。

旅先で感じる肌感覚の話をしていたはずが、ずれまくってきたような汗。とにかく、入国時の状態と、数週間なり1ヵ月なりそれ以上なりを過ごしたあとの肌なじみの差は、いつも少しおもしろいということ。

しかし、旅の記事を書くとどうしてもしばらくは旅のことを考えるようになってしまうな。

とほ

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