とある内向旅人の闇。

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旅語り

旅のひとこま。今からひとでなし系内向旅人の話をします。気が重いけど、さらします。

 

旅先で日本人と出会うことは嬉しい。短期旅だとそうでもない。むしろ避けるかもしれない。少なくとも昔は明確に避けていた。でも旅を重ねるうち、その時々に合わせるようになった。ある程度長期の旅だったり辺鄙な場所だったりすると嬉しさはあがる。しばらく日本語を話してない場合などは特に。意識していなくても、話し始めるととまらなくなったりして、あら、日本語話したかったのかしら私、と自覚したりする。

けれど時と場合による。最悪なのは、自分ひとりの時間を過ごしたい時に出くわすケースだ。落ち着けるカフェをみつけて、それはその町で唯一の長居できて暖もとれてネット環境もよい見晴らしのよいカフェだったりして、だから当然、外国人客にも人気だ。そこはわかっている、だから独り占めする気はこれっぽっちもない。そこはことわっておきたい。

全体的に人口の少ない、秘境と呼ぶ人もいるような、だからこそゆったりリラックスして何もせずに過ごすことを目的に旅人が集まる場所だったりして、そういう町では、現地の人旅人関係なく、国籍関係なく、人との関わりも楽しみになったりする。外の道でばったり会っていたら違うシナリオが待っていたかもしれない。

だけど。だけど。カフェに行く目的が、集中して物を書くとか案を練るとか、宿では心もとないWiFiを求めてブログや人との連絡を一気にすませるとか、だったりするとき。

二階席にいる私から、眼下の通りを歩いていく日本人らしい人が視界に入る。向こうも私に目をとめる。その人が足をとめる。そして見上げる。こんなところにカフェがあったのか、というふうに。やがて階下の扉をあけるカランカランという音がする。

ああ、と思う。

もちろん偶然かもしれない。いや、偶然だろう。偶然にちがいない。偶然でないなんて思うのは自意識のしわざだ。だけど。今このカフェにいるのは私ひとりだ。私は今書いている画面にことさらに集中する体制に入る。もしかしたら韓国か中国の人かもしれない。むしろそうであってくれ。

階段をあがってくる音。その人はブリキでがちがちに装備した私の背後を通り過ぎて、注文カウンターにいく。英語で注文している言葉の合間に少し日本語がまじる。ああ、と私はまた思う。ごそごそとかばんからイヤフォンを取り出し、スマホにとりつける。画面にさらに集中する。ふりをする。

ふとななめ背後に人の気配がして、びっくううとなる。反射的に相手の立っている側のイヤフォンをはずしてしまう。話したいわけではない。断じてないのに自分でもよくわからない。ぶつぶつと小さくつぶやく声にやはり日本人特有のうなづきのような発声が混じる。なんだその日本人アピールは。

いや。きっとその人はアピールなんてしていない。隣の壁にWiFiのパスワードが書いてあり、その人が見ているのはパスワードだ。でもななめ背後に人が立ち、画面の中の日本語を読まれているかもしれない可能性を極端にいやがる習性が私にはある。だから日本でも確実に背後が壁であるカフェでないと物を書く目的では行かないくらいなのだ。旅先で心置きなくその時間が取れるのは、空間の広さや人の無関心に加えて、日本語を覗き見られる心配がないか著しく低いことがとても大きいのに。だから、あなたが日本人なら、李下で冠に手を伸ばすような行為はどうか控えていただきたい。例えパスワードをみているだけでもだ。

いや。だから。ひとでなしの話をしているといったでしょう。もしくは自意識過剰の話を。こういう時、私の自意識は遺憾無く実力を発揮する。ありがたいわけがない。でも発揮してくれてしまう。

その人は私のひとつ席をあけた隣に座る。背後にもテーブルがあるというのに。しかし無理はない。目の前の素晴らしい景色をもっとも享受できるのはこのカウンター席なのだから。その人に落ち度はまったくない。起きたことは、日本人旅行者がただ店に目をとめ、入ってきて注文し、壁のWiFiパスワードを確認するためにななめ背後に数秒たち、しかる後にななめ前の挙動不審な女をびくつかせ、ひとつあけた隣の席に座っただけだ。

だけど、その人の印象は今や私の中で最悪だ。画面に集中などもはやできるわけがない。私の朝のこの貴重な時間をどうしてくれる。停電が終わるのを待って支度して来たんだぞ。ここに来てある程度まで書いてしまうのが今日のふたつの大きな目的のうちのひとつだったんだぞ。

知らんがな。by隣の人

この状況で、おそらく互いに日本人とわかっている店の中でふたりきり、しかもここは本国から遠く離れた旅先、この状況で話をしないことのなんと不自然なこと。加えて大音量で音楽を耳に押し込み、全力で話しかけるなのオーラを出す自分に対するお前なんやねんという自責がすごい。

なすすべもなく、目の前の空の皿の淵にとまった蝿をみつめる。蝿って前足だけでなく後ろ足もすり合わせるんだな。

そのうち、ようやく中国人旅行者数人がのぼってきて注文し、背後のテーブルで談笑しはじめる。ようやく室内にざわめきがうまれる。おそいんじゃあああああ。

いやだから。ね。ひとでなしの話をしているといったでしょう。ああ。

とほ

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