11月に劇場で観た映画。

映画

 

土曜の夜に冬キャンプから戻ってきまして、日曜は朝からお片付けと更新をちゃちゃっと……なんて計画してたのですが、実際にはほぼ1日爆睡しており。てへ。てへ、じゃない。よいお年をした荷物多い系徒歩ソロキャンパーは、回復に時間がかかるのですよ。

12月になって5日も経ってしまったし、映画の話はもういいかとも思ったのですが、備忘録として書き落としておくことにします。大きなネタバレはしてないつもりですが、ラストに触れているものもあるので、観たい方は回れ右がいいかもしれません。

『モーリタニアン黒塗りの記録』

監督:ケヴィン・マクドナルド
出演:タハール・ラヒム、ジョディ・フォスター、ベネディクト・カンバーバッチ他

9.11同時多発テロの首謀者の1人としてグアンタナモ収容所に14年拘禁された、アフリカのモーリタニア出身の男の話。

出演者名のトップを大女優ジョディ・フォスターではなく、タハール・ラヒムにしたのはそういうことです。推しです。それが観に行った動機でした。そこから切り出したので先に書くと、タハール・ラヒムの演技がすばらしかった。本当にすばらしかった(二度目)。これはアラビア語もフランス語も英語も堪能な彼だからこその役でもあったと思う。

でも、推しが出ているからだけでなく、実話をベースにした映画はそこまで食指が動く方ではないのだけれど、なんとなくこれは観ておいたほうがいい、という勘が働いたというのもある。そしてそれは当たっていた。白い婚礼出席用の白い衣装をきたモハメドゥ・スラヒ(タハール・ラヒム)が海岸を歩く穏やかな冒頭のシーンでそう感じ、急展開するまでの間で確信し、最後まで裏切られることはなかった。実話ベースということは知っていても詳細は知らないためにどちらに転ぶかは分からず、観ていてずっとはらはらしていた。構成としても秀逸だったと思う。

最初は、あは、カンバーバッチが米英語話すのっていまだに違和感ある、などということを考える余裕もあったんだけど、途中からは何でこんなに泣いてるんだろう、というほどずっと泣いていた。言葉にすると途端に安っぽくなるけど、人間の尊厳を扱った話だからだ。夜寝る前にも思い出してまた泣いてしまった。

この映画はスラヒ氏が書いた手記を基にしていて、エンディングで本人が出てくるのだけれど、ラヒムが演じていた、どんな状況でも希望を失わない人好きのする雰囲気は、本人そのものだった。14年の失われた年月とその間に行われたこと。どうしたらあの雰囲気を、人間性を保てるのだろう。もともとそういう人だと、言うのは簡単だ。

冷静で強い意志を持ちながら温かいナンシー・ホランダー弁護士(J・フォスター)と、対立側のスチュアート中佐(B・カンバーバッチ)が、それぞれ真実を知っていく過程の描かれ方も良かった。

あと、ちょっとしたシーンかもしれないけれど、スラヒが、壁を隔てたフランス人囚人と互いに顔を知らないままに友情を育んでいく中で、打ち解けるきっかけが「オマー・シャリフ」だったのも好きだった。

もう一度、タハール・ラヒムの話に戻すと、もしこの映画で彼を知ったという方、Prime videoで観られるジャック・オディアール監督『預言者』、見応えがあっておすすめです。カテル・キレヴェレ監督『あさがくるまえに』も。主役じゃないけれど印象に残る役を演じています。

『DUNE/デューン砂の惑星』

監督:ドゥニ・ヴィルヌーヴ
出演:ティモシー・シャラメ、レベッカ・ファーガソン、オスカー・アイザック他

正直に書く。この映画自体がいいとかわるいではなく、自分が年代記みたいな話にそれほど引き込まれないタイプなだけだ、舞台が地球であろうと他の星であろうと、監督がだれであろうと、ということを再確認した観賞体験でした。ティモシー・シャラメは美しかったです。

デヴィッド・リンチ版のDuneは遠い昔に観た。けれど、当時の推しカイル・マクラクランを持ってしても、睡魔と、画面がなにかよく見えなかった記憶しかない。その後、『ホドロフスキーのDUNE』を観た時には、そのドキュメンタリー自体がよくできていたというのもあって、Duneを作りたい情熱がよく伝わってきて、できることならホドロフスキーバージョンのDuneを観てみたかった、と思わせられた。それをいうなら失敗作だったと認めているリンチバージョンだって、成功したらどうなっていたのか、という興味はある。

そこに満を持してのドゥニ・ヴィルヌーヴだ。『メッセージ』『ブレードランナー 2049』と来てSFを撮る下地はできている監督で、だけど正直なところ、私自身は、この人の映画は、すごくノーでもないけれどそこまでぴんとこない、というあたりをずっと推移していて、そこに、年代記はぴんとこない性質とが合わさって、退屈もしないけれど引き込まれもせず、ただひたすらに淡々とみていたら2時間半がたっていた、という感じだった。

とはいえ、なぜみんなそんなにDuneに取りつかれているのだろう、という興味はもうずっとある。だから、それなら原作に当たるのが一番いいのかもしれないけれど読める気がしないし、作り手の情熱への興味だけを持って、これからも続編をひとまずは追っていくのだろうと思う。そんな観方が正しいかはともかく。

この先最後まで観たとして、ヴィルヌーブついにやったね!と自分の中のブラボー隊が立ち上がったとしたらそれはそれでおもしろいし、まあ、その、なんだ、というできに終わって、第4の監督が新Dune製作のために立ち上がったとしたらそれはそれでやっぱり、Duneってもう本当なんなの?という興味が深まりそうだ。

『TOVE/トーベ』

監督:ザイダ・バリルート
出演:アルマ・ポウスティ、クリスタ・コソネン他

私はトーベ・ヤンソンは、ムーミンもだけど、小説やエッセイがとても好きで、中でも孤島クルーヴ・ハルでの生活を書いた『島暮らしの記録』を愛しており、過去には、生誕100周年 トーベ・ヤンソン展も行ったし、フィンランド・タンペレにあるムーミン美術館にも行った。

と言うことによって、「あちしトーベにはくわしいんで」風を吹かす気は毛頭ないのだけど、ただ、そういうわけで、それ相応の思い入れにより映画館に足を運んだ。ら、いつものごとく予習もせずに観にいったせいで、てっきりクルーヴ・ハルの話も出てくるのだと思い込んでいて、島、島、島・・・と鼻息荒く観ていたら、島の兆しすらなく、後年のパートナー、トゥーリッキもやっと出てきたばかり、というところで映画が終わってしまった。がーん。

映画はトーベが若い頃の激しい恋に焦点をあてた内容で、スナフキンのモデルになった男性の存在やトゥーリッキが女性であることはもちろん知っていたけれど、ヴィヴィカなんてそんな同性の激しい恋の相手がいたなんて全然知らなくて、「あちしトーベのこと何もわかってなかった・・・」となった。

映画としての感想は、正直に言えば、トーベ・ヤンソンに興味がある人が観に行く話、の範疇を超えていなかったかな、という印象だけど、その恋がムーミンや本人の人生に影響を与えたことは明らかで、だからこそ映画のテーマになったのだろう。なにより、半自伝的な映画が作られるほどにはやはり国際的に大きい存在なのだなあ、と再確認できただけでもよかった。ことにする。

トーベを演じた俳優さんは、ご本人の面影を容易に想像できる容貌だったし、トゥーリッキに至ってはまんますぎて、ふふ、と笑みが漏れるなどした。

『囚人ディリ』

監督:ローケーシュ・カナガラージ
出演:カールティ他

主人公なめたらあかんやつ系の無双映画が好きな人は観るべし。おもしろかったです。

インド映画好きだけど、何度かいろんな場所に書いているけれど、私はどうしても北寄り、ヒンディ映画が好きなので、慣れもあるのだろうけど、タミルやテルグなどの南のノリが厳しいところはちょっとある。実際、南特有の(と私が感じる)泥くささはあった。でもそこ込みで、いきおいのある映画であった。

いやいや巻き込まれたやつが、巻き込んだ側もびっくりしちゃうほどの強いやつ、って設定だけでもうおもしろい。し、何がよかったって、主人公の強さだけに焦点が当てられているのではなく、離れた場所でやはり巻き込まれた、強くもなんともない警察官ナポレオン(ナポレオン!)がたったひとりで、正確には取り残された大学生たちと一緒に、麻薬組織の一団から警察署を守るはめになること。二つの視点が交互に語られていくので、退屈しない。いや、スローモーションとか笑っちゃったけどね。それ込みでね。楽しむがいい!という南インド映画の心意気を感じた。

主演のカールティ出演作は、私はこれで2作目。初めて観たのが吹き渡る方面(隠語)だったために、役のイメージが強烈すぎて、他の出演作を見る気がどうしてもおきなかったのだけど、この役はよかった。髭もよかった。髭がよかった。私、カールティの顔自体はきらいじゃないんだよな、と気づけたのは大きなポイントだった。よし、他の映画も観てみよう。とりあえずカールティには一生髭を生やしておいてほしい。

後半は髭が好き、という話しかしてないけれど、これで終わります。

 とほ